今の彼を、俺にはどうしても放っておけない

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ある日、縁は高校の前で不審な男に出会います。彼は縁に郁未の所在を縁に尋ね、さらに縁を自らのファンだと勘違いして無理やりサインをして去っていくのでした。その不審者は皆川優、4巻で名前だけ出てきたもう一人の天才少年です。

無理やり鞄にサインをされた縁は怒り心頭で、練習場所で鉄雄相手に怒りをぶちまけます。

鉄雄は縁の怒りにはお構いなしでカルミナ・コンに向けて予選の課題曲も決まり、気合が入っているところを見せます。さらに皆川優が以前、鉄雄が金、銀該当なして銅賞をとったコンクールの有力候補だったことを思い出し、雪辱戦だとばかりますますやる気が漲るのでした。

そんな鉄雄に百合子は、ある事実を告げます。

「カルミナコンの予選の曲、郁未とかぶってる。」

「同じ曲を、橘郁未も弾く。」

偶然だな、とかわす鉄雄、百合子は続けてその場にいた哲郎に、

「郁未の元に出入りしているのは本当か?」

と聞きます。鉄雄は百合子が、哲郎が郁未に情報を流していることを疑っていると感じ、すべて偶然だ、と言い募りますが、百合子は、鉄雄と郁未の間にこの手の偶然が多いことを指摘します。公園で偶然会ったこと、鉄雄の出た東コンに郁未も出たこと。百合子は哲郎に

「お前が弁解するなら、お前の言葉を信じる。」

と言います。哲郎はそれに対し、

「郁未と会っていたのは本当だ。」

と告げます。しかし、

「郁未に鉄雄の情報を流したりはしていない。絶対に。」

とも言いました。しかし哲郎はもう一つ、鉄雄に告げることがありました。

「俺、郁未のメンタルトレーナーになろうと思う。」

「今の郁未を、俺はどうしても放っておけない。」

もう一人の天才・・・チェロとなら、どこへでも行け

鉄雄は自分がいると哲郎がやりづらいと思い、居候していた哲郎の家を出ます。自分の中の醜い感情を出してしまうことも、ため込んでおかしな方向に行ってしまうことも、両方を恐れる鉄雄。そんな鉄雄に縁はこっそり囁きます。

「誰にも言わないから、言ってみ。」

「あいつ、俺の大事なもの全部、持ってっちゃうのな・・・っていう。」

さらに続けて、醜い感情なくして音楽やるつもりだったのかよ、音楽は全部の感情を許容してくれる。

「だから私は音楽が好きだよ。」

そんな縁に鉄雄は

「俺と一緒に走って。最後まで。」

と頼み、縁は

「任せろ!」

と請け負います。それを影から見ていた百合子は密かに安堵するのでした。

百合子は鉄雄に、カルミナコンまで厳しく指導していくことを告げ、それを受け鉄雄は百合子に向かって

「宜しくお願いします。」

と頭を下げるのです。そんな鉄雄を目にした百合子の表情は我とは知らず和み、やはり蘇我百合子はこの唯一の弟子に師匠として並々ならぬ愛情を注いでいることが見て取れるのでした。

そしてカルミナコン当日、二人の天才と称される郁未と皆川優の邂逅に、参加者がざわめくのでした。橘郁未以外には眼中にないという態度を周囲に見せつける皆川に対し郁未は

「誰だ?」

と問いかけてしまい、皆川の態度にムカつきを抑えられない縁は密かに(でもないか)留飲を下げるのでした。郁未の心にあるのはあくまで鉄雄一人だったのです。しかしそれと同時に縁は、「皆川のようなタイプは強い」と見切っており、それを鉄雄に告げます。

トップバッターの皆川の演奏がはじまり、それとともに皆川の独白が流れます。無理やり習わされたピアノのレッスンから逃げ出した幼い皆川の目に映ったチェロ。その瞬間、彼はこの楽器を愛せる、この楽器となら自由になれる、なぜならチェロを愛しているから。

しかし、皆川は思ったほど自由になれなかったのです。皆川の目は郁未に向けられるようになりました。郁未となら自由になれる、そう思ったのです。

一方哲郎は、郁未のマネージャーの鷺とカルミナコンに出かけます。そこで鷺の持つ「郁未に頼まれた荷物」を目にしてしまいます。それは「東村山興信所」と名の入った封筒でした。

俺にとっての天才は、手塚鉄雄なんです。

出番待ちの縁は、皆川と再び出会います。そこで縁は皆川から

「思い出した。成田縁でしょ。僕と同じく神童と言われてた。」

と言われます。今はコンクール嫌いの縁も昔はコンクールで金賞を取りまくっていたのでした。カルミナコンには出場ではなく伴奏であると言う縁に皆川は、コンクールから逃げたと決めつけます。その皆川に縁は

「私は自分の大切なものを大切にしているだけ。」

と告げ、その場を去ります。落ち込んだ縁は鉄雄の元に行き

「死ぬのなら、どんな日がいい?」

と問いかけるのでした。続けて鉄雄は、

「もう死ぬって、どうしようもなくって、ここでおしまいってわかってたら、最後くらい笑いながらこんな晴れた日に、踊りながら死ぬのも悪くない。」

鉄雄の出番中、伴奏しながら縁は、鉄雄のそういう強さは嫌いじゃない、と思い返すのでした。そしてそれを客席で聴く郁未の表情がすべてを物語っているようだったのです。

郁未のマネージャーの鷺は、鉄雄の演奏を以前と全然印象が違う、チェリストはいろいろな表現ができてすごいと肯定的に評価しますが、哲郎はそれは鉄雄がまだ迷いのなかにいるからだと評します。身内だから厳しいという鷺に哲郎は、鉄雄を信じているからだと、自分にとっての天才は蘇我百合子でも橘百合子でもなく、手塚鉄雄だと言うのでした。

お兄ちゃんはつらいよ!

哲郎は百合子に、「お前は抱え込みすぎだ。」と言われますが、それに対して哲郎は「お兄ちゃんだからね。」と答えます。お兄ちゃんと言えばブルージャイアントの雅兄が思い浮かびます。初任給で弟の大に店で一番いいサックス買ってあげるお兄ちゃん、たった13歳で母親を亡くしてから弟妹の面倒を見てきたザ・兄貴です。哲郎は雅兄とは違って、自分もチェロをやっていて今も音楽家のサポートを生業としているだけあってその目は厳しいです。ただ、厳しい分確かな目で鉄雄の将来を信じているようです。さらに、郁未のメンタルトレーナーとなることである意味鉄雄の敵側についてしまった哲郎は、郁未に対してもお兄ちゃんなのですね。もっとも郁未はそれをまったく認めていませんが。

気分はグルービーの憲二と大将もお兄ちゃんですが、妹のかおりと麻美は兄貴を完全に舐めてるからな。

タランテラ

鉄雄と郁未がカルミナコンで弾く曲、ダーウ”ット・ポッパーの「タランテラ」

タランテラ自体はイタリアの舞曲で、ダーウ”ット・ポッパーのタランテラは鉄雄が縁と演るならこの曲、と選曲したものです。

D.Popper – Tarantella/Daniil Shafran (1950) クリックでyoutube

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ポッパー:タランテラ



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