映画化

音楽小説 蜜蜂と遠雷(上)その1 あらすじとネタバレ

芳ヶ江国際ピアノコンクール・・・4人のコンテスタント

購入は画像をクリック

映画、「蜜蜂と遠雷」を公開初日に観てきました。音楽映画はやはり劇場でよい音響で観るのが一番です。映画中の音楽以外の音も堪能できます。ぜひ公開中に観ることをお勧めします。

原作小説は、芳ヶ江国際ピアノコンクール(モデルとなっているのは浜松国際ピアノコンクール)のパリオーディションシーンからはじまります。モスクワ、パリ、ミラノ、ニューヨーク、芳ヶ江の各地でのオーディションで選ばれた90名が、芳ヶ江で行われる1次予選に参加、その90名は3次予選までに12名に絞られます。そして3次予選を突破した6名が本選に駒を進めるのです。

その中のパリオーディションに、クラシックのピアニストとしてまるきり異端としか思えない16歳の少年が出場するところから物語ははじまります。移動に時間がかかり遅刻したため、順番が最後となった彼は泥だらけの手、カジュアルなシャツとパンツで現れ、立て続けに課題の3曲を弾いたのです。その演奏は他のコンテスタントとかけ離れていました。音色が、まったく同じピアノと思えないほど違っていたのです。それだけならよくあることで、よい演奏者なら同じ楽器を使っていても、同じ楽器とは思えないほどいい音を出すものなのです。しかし、この少年の音はそのレベルではありませんでした。

審査員の一人、嵯峨三枝子はその音に恐怖すら感じました。恐怖を感じつつも耳はその音を聴きたがり前のめりになっていくのです。三枝子の恐怖はやがて、なぜか怒りに変わっていきました。

少年のオーディションの合否は揉めに揉め、決定に時間がかかりました。その少年、風間 塵(かざま じん)は恐らくほとんど正規の音楽教育を受けていないであろう、その塵がオーディションに合格した理由は、三枝子が恐怖に駆られるほどの圧倒的な才能ともう一つ、塵がユウジ・フォン=ホフマンの推薦状を携えていたことによるものでした。

コンテスタントの一人、栄伝 亜夜(えいでん あや)は20歳。かつて天才少女と呼ばれ、幼い頃にCDデビューを果たし演奏活動もしていたが、13歳のときステージを直前でドタキャンします。亜夜の最初のピアノの先生でありマネージャーでもあった最愛の母が亡くなり、それから間もないコンサートで母の不在を強く実感してしまった亜夜の中から取り出すべき音楽が消えてしまったのです。

演奏活動から離れ、普通の高校生として生活するようになった亜夜の元に、母の音大時代の友人の男性が訪ねてきました。浜崎と名乗るその男性は亜夜の非凡な音楽性が今でも彼女の中に息づいているのを認め、自分が学長を務める音大に誘ったのです。クラシックの演奏活動はまったくしていなかった亜夜でしたが、音楽は今でも身近にあり好きだったため、音大進学を決めたのでした。

亜夜は身の回りの音すべてから音楽を聴くことができ、それが彼女をして天才少女と呼ばわしめた才能であったのです。

高島明石は28歳、コンクール出場年齢ギリギリの明石は音大を出た後、楽器店に勤務し教師の妻と保育園に通う息子の三人家族という異色の存在です。地に足のついた生活者の音楽を奏でる明石は常にある疑問を抱いていました。

「生活者の音楽は、音楽だけを生業とする者より劣るのだろうか。」

抜きんでた才能があるわけではない明石ですが、音楽には縁のなかったはずの祖母の耳のよさを身近に感じ、音楽は一部の天才だけのものではないと生活の中の音楽を大事にするのでした。明石の祖母は、明石や遊びにくる明石の友達の弾くピアノの音色を聴いて、性格や精神状態を言い当てるのでした。深いところで音楽を聴く人だったのです。

マサル・カルロス・レウ”ィ・アナトールはフランス人を父に、日系三世のペルー人を母に持つ、今回のコンテスタントの中で一番の注目株です。幼少の頃一時期日本に住み、その後フランス、アメリカと移り住み、現在はジュリアードに在学する19歳です。ジュリアードの王子様、との異名も持っています。マサルはその出自と成育歴から多国籍な感性と雰囲気を持ち、すでにスターとしての貫禄を身に着けていました。もちろん雰囲気だけでなく実力もずば抜けていたのです。

マサルがピアノに初めて触れたのは、日本に住んでいた時です。近所に住んでいたピアノを習っている少女との出会い、その少女とピアノの先生に耳の良さを見出されたのがきっかけでした。マサルがフランスに帰国することになった時先生はぜひピアノを習うように勧め、その言葉通りにフランスでピアノを習いはじめたマサルはたちまち頭角を現し二年後には神童として広く名を知られるようになったのです。

1次予選

一次予選がはじまりました。高島明石の演奏シーンは、明石の妻満智子の目を通して語られます。満智子は明石とは幼馴染です。研究者一家に生まれ自らも研究者を志し挫折した満智子は、音楽の道を一度挫折して再挑戦する明石に共感し応援し続けていたのです。

明石の出番の前から聴いていた満智子は、他のコンテスタントを

「みんな上手だな。」

と感じていたのですが、明石の演奏を聴き同じピアノなのに全然違う印象があることに気づくのでした。音楽とは人間性であることを、子供の頃ピアノを少し習っただけでそれ以外には無縁だった満智子をして気づかせた明石の演奏でした。その音には満智子のよく知っている明石の人柄が現れていました。

そして明石の演奏は審査員にも大きな印象を与えたのでした。音楽を聴いた感じ、という感想をもらす審査員もいるなか、嵯峨三枝子は、明石の名をしっかり覚えこんだのでした。

栄伝亜夜は、客席を占める観客のあまりに驚いていました。今日はジュリアードの王子と呼ばれるコンテスタントが出ると浜崎奏(はまざき かなで)に聞かされ、怪訝な表情を浮かべます。奏は亜夜を自分の音大に誘った浜崎学長の次女で今回は亜夜のマネージャーのような立場で同行し、何くれとなく世話を焼いています。大らかで少し天然な亜夜としっかり者で常識人の奏は相性もよく、姉妹のように付き合っています。

奏の言うジュリアードの王子様がステージに姿を現したとき、その華やかな雰囲気に圧倒されながらも亜夜は、なぜか懐かしいものを感じるのでした。王子の演奏がはじまり、他のコンテスタントとの徹底的な違い、スターの持つオーラ、まさしく王子である気品に客席も審査員席も虜になっていったのです。

一次予選最終日、亜夜の出番がやってきます。

芳ヶ江国際ピアノコンクールで実際に演奏された曲はこちら

映画、「蜜蜂と遠雷」では、4人の登場人物の演奏をその個性に合わせて違うピアニストが吹き替えをしています。


映画「蜜蜂と遠雷」〜福間洸太朗 plays 高島明石 [ 福間洸太朗 ]

明石が一次予選で本当に弾きたかったのはこの曲です。時間制限に引っかかるので諦めました。

Chopin – Ballade no. 4 in F minor, op. 52 – Kotaro Fukuma クリックでyoutubeへ


【ポイント10倍】金子三勇士/映画「蜜蜂と遠雷」〜金子三勇士 plays マサル・カルロス・レヴィ・アナトール[UCCS-1252]【発売日】2019/9/4【CD】

そして、ジュリアードの王子様マサル・カルロスの吹き替え、金子三勇士の演奏です。一次予選でマサルが弾いた曲が見つからなかったのでこちらを。

金子三勇士 – 献呈(シューマン/リスト編) S.566 クリックでyoutubeへ

長い作品なので分割します。その2へ続く。

 

 

 

キャバレー あらすじとネタバレ


【中古】 キャバレー / 栗本 薫 / 角川書店 [文庫]【ネコポス発送】

キャバレーは栗本薫作のジャズ系ハードボイルド小説です。(注:そんなジャンルは存在しませんよ)栗本作品のうち現代ものに何度も登場する、サックスプレイヤーで作曲家の矢代俊一の若き修行時代を描いています。Wikipediaによると(架空の人物なのにWikipediaに載ってます。かなり細かく作りこまれていて、リアルです。)22歳で「モントルー・ジャズ・フェスティバル(実在の音楽フェス)」に飛び入りでセッションに参加し、観客を総立ちにさせた伝説の持ち主です。この頃はまだ無名だった矢代俊一は一躍有名になり、23歳でレコードデビューを飾ります。

キャバレーはそれより以前、19歳の大学生だった矢代俊一が下町のキャバレー「タヒチ」でジャズ修行をしている時代の物語です。いわば卵の中の天才が卵から孵るお話です。
天才ジャズミュージシャン矢代俊一と、ジャズには縁のない、そのくせ確かな耳だけは持っているヤクザの滝川との交流をメインに、さりげなくジャズの楽曲について解説も入ります。

滝川は自分が殺した男の部屋で見つけたレコードではじめて聴いたジャズが気になり、俊一の演奏するキャバレーでその曲「レフト・アローン」のリクエストを繰り返すようになります。
そしてある日、俊一を席に呼び
「なぜにお前の演奏はレコードと違うのか。」
と聞きます。
下町のキャバレーですからリクエストといえば演歌にムード歌謡、そのような場所でジャズの名曲をリクエストする相手がまさかジャズに対してド素人であるとは思いもしない俊一は滝川の問いを
「お前みたいな若造がジャッキー・マクリーン演ろうなんざ百年早いわ」
と嘲られたと思い
「ジャッキーが聞きたきゃレコード聴きやがれ!俺が出すのは矢代俊一の音だ!」
と啖呵を切ります。
普段は大人しい俊一ですが、かっとなると見境がつかなくなり相手がヤクザであろうがなかろうが、くってかかってしまうのです。

それから数日後、店が終わった早朝、いつもの練習場所である川原で俊一は滝川と再会します。
俊一に対する滝川の態度はうってかわって、まだ子供の俊一に敬語を使い尊敬の念さえ感じさせるものになっていました。
そして俊一は俊一で、滝川がまったくジャズを知らないこと、それでいて俊一の演奏時の気持ちの変化や他のメンバーとの違いなどを正確に言い当てたことに心底驚きます。

滝川が若い頃からジャズに触れる生活をしていたらどうなっていたんだろう、と考えることがあります。
その確かな耳と、ヤクザの世界とはいえ一目置かれる存在であった滝川がジャズを早くに知っていたら、楽器を持っていたら、やはりミュージシャンになっていたかもしれません。

同じ栗本作品で、やはりサックス奏者を主人公とした「死は優しく奪う」にもチョイ役で矢代俊一が出てきます。キャバレーの少しあとです。作中で俊一は、主人公の金井恭平について
「昔知ってたヤクザに似ている。」
と語るシーンがあります。

金井恭平は俊一とは違うタイプのミュージシャンで、骨太で男っぽい、それでいて暖かな音を出します。周囲からもボスと呼ばれ慕われています。確かに滝川と重なる面があります。

滝川がミュージシャンとして俊一と出会っていたら、二人の関係性はまったく違ったものになっていたかもしれません。
それはそれで読んでみたかったような気がします。
単行本の帯のコピ-「若さの残酷、ヤクザの優しさ」がこの作品を一言で表していて切ないです。

映画化、ミュージカル化されました。ミュージカルではサックスプレイヤーではなくタップダンサーに変更されています。おそらくサックスをプロとして吹ける役者が見つからなかったためではないかと思います。ダンサーならミュージカルの役者の本業ですからね。それにバンド入れてしまうと転換とか大変そうですもんね。


[DVD邦]キャバレー [主演:野村宏伸/鹿賀丈史/三原じゅん子/原作:栗本薫/1986年作品]/中古DVD【中古】【P10倍♪5/9(木)20時〜5/21(火)10時迄】


栗本薫・中島梓傑作電子全集13 [ハード・ボイルド]

「キャバレー」とその続編、「黄昏のローレライ」、黄昏のローレライにも登場するサックスプレーヤー金井恭平を主人公とする 「死は優しく奪う」その他数作のハードボイルド小説とエッセイが収録されています。


栗本薫・中島梓傑作電子全集7 [朝日のあたる家]

矢代俊一はこちらにも名前だけ出てきます。日本では作曲家としても名が通るようになってます。ジャズプレイヤーの中では一番有名かもしれません。