僕のジョバンニ,チェロ,クラシック

音楽漫画 僕のジョバンニ 4巻 あらすじとネタバレ

落ちこぼれトリオのライブ!ソルティドック


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鉄雄に自作曲でライブをやることを提案した縁は、乗り気ではない鉄雄をよそにどんどん話を進めます。まずバイオリニストとして、鉄雄と郁未が出たコンクールで百合子の弟子を騙った御手洗健太をスカウトします。御手洗はバイオリンからチェロに転向したのでバイオリンも弾けるのです。

さらにライブ会場として、縁のバイト先の喫茶店を選んでありました。喫茶店ではじめて御手洗と音合わせをした鉄雄は、御手洗がチェロよりバイオリンの方が巧いことに気づきます。御手洗は音楽一家に育ち父親も兄姉も国内で入賞経験がある中ので落ちこぼれで、バイオリンでは一番になれないからチェロに転向したと語ります。

それを聞いた鉄雄は、

「コンクール嫌いのピアニスト、音楽一家の落ちこぼれ、師匠が有名なだけの凡人」

3人の落ちこぼれライブだと言い、面白いライブにする、とやる気になるのでした。

オリジナル曲だけのライブの難しさを知るマスターの松浦の提案で、ライブ曲をあらかじめ録音した音源をライブの日の二週間前から店のBGMとして流すことになります。宅録ができることで鉄雄のテンションは一気にあがるのでした。

トリオ名はソルティドッグ。カクテルの名前ではなく、「しょっぱい負け犬」という意味です。ライブ当日の一曲目はオリジナルではなく、キング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マンバリバリのプログレです。キンクリは今でも現役ですが、録音自体は1969年、喫茶店の常連客も大半が子供か、まだ生まれていないかです。それを現在の高校生が演ってしまうのですから、それだけでも注目は集まります。そこに鉄雄の超絶アレンジ、そしてぶっ続けでオリジナルに入る展開で、客席を完璧に掴みます。この辺は、イタリアでジャズクラブ等にも入り浸っていた鉄雄がライブというものをよく知っていたためにできること、と言えるでしょう

鉄雄は演りながら、

「ああ・・・俺、本当に 音楽が好きだな

と幸福感に満たされていきます。さらにハプニングもあり騒ぎになりましたが、その際の松浦の言葉も鉄雄の心に響きます。ライブを終えて、鉄雄は何かをつかんだように感じるのでした。

哲郎に思いがけない仕事のオファー。

哲郎は鉄雄が少し変わったことに気づきます。そして、百合子に自分がもっとしっかりしていたら鉄雄と郁未はここまでこじれなかったかもしれない、と思いを打ち明けます。自分がチェロをやめてから、一人で弾くしかなくなった鉄雄がどれだけ孤独だったか、鉄雄を孤独にしたのは自分で、それが郁未を追い詰めることにつながったのではないか、哲郎は一人思い悩んでいたのでした。百合子は哲郎に、自分を責めるなと伝えます。お前は一人でしょい込みすぎるとも言います。

そんな時、哲郎の勤めるメンタルトレーナーの事務所に、哲郎を指名する仕事が舞い込みます。クライアントは橘郁未。郁未と手塚兄弟が関わりが深いことを知る郁未のマネージャーからのオファーでした。

現在の鉄雄と郁未の関係を鑑み依頼を断ろうとする哲郎ですが、事務所所長の説得もあり、一度だけでも郁未に会ってみようと依頼を受けます。郁未は数時間の面談の間哲郎の語りかけにも拒否を示し、面談は失敗だったと思う哲郎でしたが、マネージャーは面談終了間近に初めて郁未が自分から人に話しかけるところを見たと言い、再度の面談を依頼するのでした。

哲郎は郁未との面談で、一緒に暮らしていた頃の昔話をするのでした。話をするのは主に哲郎で、郁未は哲郎の問いかけに答えるだけなのですが、その郁未の記憶があまりにも鮮明で哲郎はそれに驚き、東京へ出てきてからの郁未の孤独と帰国して仲間が増えた鉄雄を思います。

鉄雄は再度コンクールに出ることを決めます。百合子はその、カルミナ国際コンクールに、郁未と対をなすもう一人の天才高校生チェリストが出ることを聞きつけます。もう一人の天才、皆川優(みながわ まさる)は郁未が出ることを期待しての出場らしいこともです。そして郁未は鉄雄が出るからカルミナ国際に出るはずだと、鉄雄は言い切ります。

御手洗に、郁未との関係を聞かれた鉄雄は

「・・・トモダチ」

と切ない表情で答えるのでした。

4巻で使われた曲はこちら

ソルティドックのファーストライブ1曲目、キングクリムゾンの名曲です。ここに聖夜の深井が客としていたら大喜びしそうです。1980年にプログレはもう終わったと嘆いていた彼ですが、この曲は1969年、全盛期の頃です。

ダウンロード版


21世紀のスキッツォイド・マン

収録アルバム新品/中古


クリムゾン・キングの宮殿(K2HD/紙ジャケット仕様)

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百合子がコンサート直前に、スポンサーの意向で予定に入れてないのに弾くように要請されブチ切れた曲。鉄雄の説得で弾くことになりました。。

 


亡き王女のためのパヴァーヌ


ラヴェル : 亡き王女の為のパヴァーヌ/マックス・エシーク社/ピアノ伴奏付チェロ・ソロ用編曲楽譜

 

1巻はこちら

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5巻はこちら

 

 

音楽漫画 僕のジョバンニ 3巻 あらすじとネタバレ

5年ぶりに再会した鉄雄と郁未


僕のジョバンニ(3) (フラワーコミックス) [ 穂積 ]

さて、2巻のラスト、コンクールで再会した鉄雄と郁未でしたが、どのような再会だったのでしょうか。

「久しぶりだな。」

と話しかける鉄雄、それに対する郁未は、

「なぜお前がここにいる。」

と冷たい表情で返します。郁未は鉄雄に、自分を恐れてイタリアに逃げたお前に、日本での居場所なんかない。と告げます。鉄雄は、昔から自分の居場所なんかなかった。日本に帰ってきたのは、0からはじめるためだと答えるのでした。確かにコンクール会場では、郁未の名前は知れ渡り恐れられ、鉄雄は「見ない顔」とされています。

縁は郁未のことを語る鉄雄の表情で何らかを悟り、

「鉄雄は鉄雄の演奏をしたらいい。」

と話します。今後、この縁の洞察力や思いやりが要所要所でうまく働いていくのです。若いのに大した子です。百合子の推薦で鉄雄の伴奏者になった縁ですが、ピアノの実力だけでなく人柄も合わせて鉄雄と相性がいいと考えての推薦だったのではないかと思います。結構言いたいこと言ってるように見えて、本当に言ってはならないことは言わない、取得選択能力もあります。伴奏者として最適なのです。

郁未の圧倒的才能の前に、崩れていく出場者たち。果たして鉄雄は?

演奏順は郁未がトップです。既に名が通っている奏者がトップで演奏することが実際にあるかどうかはわかりませんが、最初に郁未の演奏を聴いた出場者が皆、調子をくずして実力を発揮できないで演奏を終えてしまいます。郁未の見せる圧倒的な実力や才能の違いに、自分を失ってしまったのです。そしていよいよ鉄雄の出番が来ました。

会場の空気はまだ、最初の郁未の演奏に支配されたままです。鉄雄の出番は休憩をはさんで14番目です。郁未の演奏がどれだけ強烈だったかわかりますね。はらはらして哲郎が見守る中、鉄雄の演奏がはじまります。

鉄雄の演奏は会場の空気を一気に変えました。感情を十分に乗せた、個性的で直観的な演奏です。それが実は緻密な計算の上に成り立つものだと気づいた人は、客席の中には二人しかいませんでした。

その、完璧なはずの世界が、客席の郁未の姿を見たとたん崩れてしまったのです。縁がなんとか合わせにいこうとしますが、立ち直れないまま鉄雄の出番は終わってしまいます。鉄雄は予選落ち、さらにその直後、郁未が本選を辞退します。繰り上げの通過者にも鉄雄の名前はありませんでした。

どう言葉をかけていいかわからない哲郎に鉄雄は、

「ものすごく悔しい。」

「でも、これが俺の今の実力。」

「過去の成績とか、師匠が誰かとか、そういったものをすべてとっぱらったところから始める。」

と告げます。

百合子の突然の帰国。いったいなぜ?

ある日、公園でチェロを弾く鉄雄の前に郁未が現れ、

「これほどの実力があって、なぜコンクールではあんな演奏をした!」

と鉄雄を責めます。コンクールでの鉄雄の演奏が、技巧だけで作り上げたものだということに気づいていた一人は郁未でした。郁未は昔の鉄雄の演奏の方が好きだとも言います。そして自分と鉄雄の間にチェロ以外に何がある?と聞き、

「自分は上に行く。お前はそこでそうしてろ。」

と言い残して去っていったのです。

そんな中、百合子が突然帰国します。空港に迎えに行った鉄雄たち兄弟と縁。百合子は会うなり鉄雄に旅行鞄で鉄拳を食らわせます。

「人前で技巧だけの演奏をすることを、お前に固く禁じていたはずだ。」

返答次第では破門にする、と百合子は言います。鉄雄の演奏の真意に気づいていたもう一人は、審査員で百合子の知人だったのです。

鉄雄の演奏は過去の演奏家達の完璧な模倣をつなぎ合わせたもので、模倣としてクオリティが高くそのためかえって、鉄雄の欲とあざとさが耳についたとその審査員は言ったのです。

「小賢しい」

百合子の説教はさらに続きます。模倣を否定するわけじゃない。あくまで自分の表現を高める手段の一つとして有効。

「どう飲み込んで解釈して消化するかの方がはるかに重要。その工程を経て初めて、技は揺るぎない自身の血肉となる。」

その工程を省いた鉄雄の演奏は、お前である必要があるのか、と。

鉄雄はそれに対して、試してみたかったのだと答えるのでした。その方が作者の意に沿う演奏になると思ったともいいます。哲郎は鉄雄のその言葉を聞き、鉄雄は作曲家になりたいのではないかと思うのでした。そして鉄雄は百合子に謝ります。

鉄雄はイタリアでの生活を哲郎と縁に話して聞かせます。留学先での他の生徒たちとの技術のあまりの違いに打ちのめされ、焦り、追い詰められていく鉄雄に百合子は、鉄雄を弟子にした理由を語ります。

「面白い、と思った。」

そして、

「お前がお前であることを、希望にするか絶望にするかはお前しだいだ。」

と告げます。

「まず自分で自分を愛せ。それが弟子になる第一条件だ。」と。

それから百合子は、鉄雄にチェロを続けるために必要なことを、そして作曲家になるために必要なことを教え込みます。鉄雄が夜中にこっそり曲を書いていることを、百合子はとっくに知っていたのでした。

イタリアでの生活は、百合子がいかに弟子としての鉄雄を愛していたかが伝わるシーンが多くあります。また百合子が鉄雄に語る言葉も深みがあります。あらすじの一つとしてダイジェストで語っても伝わらないので、ここには書きません。ぜひ原作を読んでみてください。特に表現者であれば深く刺さるものが多いと思います。

縁はある日、鉄雄の描いた曲の譜面を発見し、ピアノで弾いてみます。そして鉄雄に

「これを人前でやらないか。」

と提案するのでした。すなわち、ライブをやってみないか、と。

3巻で使用した曲はこちら

鉄雄がコンク-ルで弾いた曲


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ちなみに郁未がトップで弾いたのは、百合子の演奏を聴いて一週間で覚えた難曲

一方公園で、郁未にペンチで弦を切られながら弾いていたのはこちら。


楽譜 パガニーニ/ロッシーニのオペラ「モーゼ」の主題によるG線での変奏曲(モーゼ幻想曲)(【734733】/2344/チェロとピアノ/輸入楽譜(T))

1巻はこちら

2巻はこちら

4巻はこちら

5巻は9/10頃発売予定

音楽漫画 僕のジョバンニ 2巻 あらすじとネタバレ

郁未のまれにみるチェロの才能に、鉄雄は・・・。


百合子の弾く難曲、ドボルザークのチェロ協奏曲を自分が簡単に弾けるようになれば鉄雄が喜ぶ、そう信じて鉄雄へのプレゼントとしてこの曲を弾く郁未。ところが鉄雄は郁未のまれにみる才能と、それを自分が持っていないことに同時に気づき、深く打ちのめされるのでした。チェロをやめた兄、哲郎は

「お前を憎みたくなかったから、チェロをやめた。」

と伝えます。哲郎は鉄雄の才能に屈し、弟を憎まないうちにチェロをやめたのでした。

鉄雄がずっとあこがれて自らから放ちたかった音を、郁未が奏でるのを聴いてしまい、友達なのに郁未が憎いと泣きじゃくります。その鉄雄に何も言ってやる言葉がみつからないと、かつて同じ思いを当の弟に抱いた兄は弟を抱きしめます。

哲郎は二人がどうにか折り合いをつけてこれまで通りの友達でいてほしいと願いますが、百合子は、折り合いなどつけたら鉄雄はその瞬間、チェリストとして死ぬ、と言います。残酷な世界で苦しみながらでもチェロを離さない、生半可ではない覚悟が必要だと。

鉄雄は郁未に、気持ちをぶつけてしまいます。

「俺のチェロを返せ!」

鉄雄しかいない郁未は、彼から向けられる憎しみに大きく傷つきます。それはチェロしかない鉄雄の苦しみと同質のもののようにも思えます。郁未は、チェロをやめたら鉄雄の友達でいられる、という哲郎の言葉に、鉄雄の特別でいるためにチェロをやめない、と告げます。鉄雄と郁未とチェロの三角関係がはじまったようです。哲郎は、郁未の鉄雄に対する執着に恐怖すら感じます。

一方鉄雄は、百合子に弟子にしてくれ、と頼みます。一度は断った百合子ですが、彼女いわく「気まぐれ」で鉄雄を弟子にするのでした。鉄雄は小学校卒業を待たずに百合子とイタリアに旅立ちます。

鉄雄はイタリアへ、一方郁未は

5年後、日本に帰ってきた鉄雄が最初に目にしたのは、既に有名チェリストとなっている郁未の姿でした。郁未の存在で日本にはチェロブームが起きていたのです。鉄雄は東京で哲郎と同居生活に入ります。哲郎は一浪して入った大学を中退し、スポーツ心理学を専攻できる大学に入りなおしました。今は演奏家専門のメンタル・トレーナーとして事務所に勤務しています。

鉄雄は帰国してすぐ伴奏者を探しますが、候補から次々断られてしまいます。鉄雄が変わってしまっているようで哲郎は心配になります。そこに現れたのが成田縁(なりた ゆかり)音楽高校ピアノ科の生徒です。彼女なら鉄雄と合うのではないかと百合子から紹介されたのです。

鉄雄の演奏は個性的過ぎて、今までの伴奏候補が誰も合わせられなかったため断られていたことを、哲郎は悟ります。そして、縁は鉄雄の演奏は個性的なのではない、技術でびっちり個性的に聴こえるように作りこんであることを看破します。鉄雄についてこられたのは縁が初めてだったようです。鉄雄と縁はお互いを認め合い、縁は鉄雄の伴奏者となります。縁は鉄雄の伴奏を楽しんでいたことを告げます。鉄雄は小規模のコンクールに出場することになり、その会場で郁未と再会します。

鉄雄が郁未の怪物的な才能の前に、なすすべもなく泣きじゃくるシーン、読んでいてこちらが苦しくなります。百合子の言うとおり、残酷な世界なのです。そして、鉄雄とも郁未とも違って何にもとらわれていない縁の存在が、鉄雄に新しい風を送るように感じます。伴奏者に縁を得て、鉄雄がどのように変わっていくのか楽しみです。

2巻で使われた曲はこちら

鉄雄と縁の初顔合わせの時にやったリベルタンゴはこちらの一曲目です。


ヨーヨーマ・プレイズ・ピアソラ/ヨーヨー・マ[CD]【返品種別A】


ピアノ 楽譜 ピアソラ | リベルタンゴ(ピアノソロ)

youtubeからはちょっと珍しいピアニカバージョンをどうぞ(クリックでyoutubeへ)

 

1巻はこちら

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音楽漫画 僕のジョバンニ 1巻 あらすじとネタバレ


僕のジョバンニ(1) (フラワーコミックス) [ 穂積 ]

僕のジョバンニは穂積さん作、現在連載中のチェロ弾きの少年二人の物語です。天賦の才能と努力の天才の二つの才能のぶつかり合いがストーリーの軸になっています。現在4巻まで発売中。未完結作品なので、1巻づつ紹介していきます。

手塚鉄雄は小学生。海沿いの小さな町でただ一人チェロを弾く子供です。以前一緒にチェロを弾いていた兄の哲郎はすでにチェロを辞めており、学校の友達もチェロに対する鉄雄の思いなど到底理解できるはずもなく、孤独な日々を送っています。鉄雄のチェロの腕前は小学生ながら大きな大会で優勝するほどですが、鉄雄は一人ではなく誰かと弾きたいのです。哲郎にもう一度弾いてほしい、一緒にやってほしいと頼みますが、鉄雄を可愛がっている哲郎は
「それだけはできない。」
と断るのでした。

橘・A・郁未(たちばな・アレックス・いくみ)は海難事故のただ一人の生存者として鉄雄の住む町に流れ着きます。郁未は海に投げ出されたとき自分を呼ぶ声を聞き、その声の元に必死に泳ぎ着きます。実はその声は鉄雄の弾くチェロの音色だったのです。郁未はその事故で母親を亡くし、外国人の父親も親戚もまったく頼るもののいない孤児となってしまいました。身元引受人がいないため、鉄雄の家に預けられることになります。

初めて会った郁未は口をきかず、鉄雄は郁未に
「お前、愛想ねえな。」
と言い放ちます。
ある日、鉄雄は弾くチェロを耳にした郁未は、海で自分を呼ぶ叫び声が鉄雄のチェロだったと悟ります。
それから郁未は、鉄雄のそばを離れず毎日チェロを聴くのでした。

郁未は哲郎から、鉄雄がいつも弾いている曲「チェロよ、叫べ」が本来は2挺で弾く曲だと聞き、自分が弾くから教えろと鉄雄に頼み、鉄雄は喜んで郁未に基礎からチェロを仕込みます。郁未は鉄雄の、誰にも理解されないという孤独を知り、それを「天才の孤独」と呼びます。郁未は自分だけは一生友達でいると誓うのでした。
「鉄雄は太陽の匂いがする。だから、お前を絶対に裏切らない。」

鉄雄と郁未の友情が深まっていったある日、手塚兄弟の祖父の古い知り合いでプロのチェリストの曽我百合子が手塚家にやってきます。
いつの頃からか百合子を苦手とするようになった鉄雄は浮かない顔です。それを知った郁未は自分も百合子とは口をきかないと言います。鉄雄は百合子から数年前に言われたある言葉に呪縛され苦しんでいました。

郁未は手塚家に正式に引き取られます。姓が変わっていないので、おそらく里子なのでしょう。郁未は鉄雄にだけ心を開き、少しでも離れることを嫌がります。その郁未を見て、手塚家の両親が郁未を引き取ることを決めたのです。今、鉄雄を引き離すことはできないと考えたのでした。郁未の鉄雄に対する感情は、友情というには激しすぎるものでした。

百合子は毎年夏に一か月ほど手塚家に滞在します。鉄雄が栃木の母方の祖父の家に遊びに行っていた一週間で、郁未は百合子の弾く曲を聴いて覚え、真似して弾けるようになります。その演奏を鉄雄に聴かせ、
「簡単だった。だから百合子なんて大したことない。あいつの言葉なんかで苦しむな。」
郁未は鉄雄を励まし、喜ばせるつもりで言ったのです。が、それは百合子に言われた言葉よりも何倍も深く鉄雄を傷つけます。
郁未が一週間で耳コピしたその曲は、チェロの曲の中でも最も難曲とされる曲でした。そして、鉄雄はまだその曲を弾けないのです。
本当の天才は郁未だったのです。これで鉄雄を百合子のかけた呪いから救うことができたと信じ、満面に幸せそうな笑みを浮かべる郁未と、この世の終わりのような絶望的な表情の鉄雄のアップが読む方も辛くなります。まだ小学生の二人が、これから才能というものに苦しむことを予感させます。一人は才能がない故に、もう一人は才能がある故に。

郁未がチェロをはじめたのは鉄雄を一人にしないためで、鉄雄が2挺のチェロで合わせたがっていた「チェロよ、叫べ!」を二人で弾くためです。この「チェロよ、叫べ」は架空の曲ですが、モデルとなっているのは「チェロよ、歌え」という曲です。歌うを通り越して叫んでしまうんです。その叫びは鉄雄の孤独の叫びであり、その声を聞いた郁未を引きつけ、命を救った叫びなのでしょう。これから成長していく二人がどうなるか、楽しみに追っていきます。

「チェロよ、叫べ!」のモデルとなった「チェロよ、歌え」はこちら。


【輸入盤】ホーナー:パ・ド・ドゥ、ペルト:フラトレス、ソッリマ:チェロよ歌え!、エイナウディ:希望の扉 サムエルセン兄妹、ペトレンコ&リヴ [ James Horner ]

【輸入楽譜】ソッリマ, Giovanni: チェロよ歌え!(8本のチェロ): パート譜セット [ ソッリマ, Giovanni ]

郁未が一週間で耳コピした難曲、チェロ協奏曲はこちら


ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 他、エルガー:チェロ協奏曲 他 [ ジャクリーヌ・デュ・プレ ]


日本語ライセンス版 ドヴォルジャーク : チェロ協奏曲ロ短調op.104 小型スコア スプラフォン社日本語ライセンス版

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