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キャバレー あらすじとネタバレ


【中古】 キャバレー / 栗本 薫 / 角川書店 [文庫]【ネコポス発送】

キャバレーは栗本薫作のジャズ系ハードボイルド小説です。(注:そんなジャンルは存在しませんよ)栗本作品のうち現代ものに何度も登場する、サックスプレイヤーで作曲家の矢代俊一の若き修行時代を描いています。Wikipediaによると(架空の人物なのにWikipediaに載ってます。かなり細かく作りこまれていて、リアルです。)22歳で「モントルー・ジャズ・フェスティバル(実在の音楽フェス)」に飛び入りでセッションに参加し、観客を総立ちにさせた伝説の持ち主です。この頃はまだ無名だった矢代俊一は一躍有名になり、23歳でレコードデビューを飾ります。

キャバレーはそれより以前、19歳の大学生だった矢代俊一が下町のキャバレー「タヒチ」でジャズ修行をしている時代の物語です。いわば卵の中の天才が卵から孵るお話です。
天才ジャズミュージシャン矢代俊一と、ジャズには縁のない、そのくせ確かな耳だけは持っているヤクザの滝川との交流をメインに、さりげなくジャズの楽曲について解説も入ります。

滝川は自分が殺した男の部屋で見つけたレコードではじめて聴いたジャズが気になり、俊一の演奏するキャバレーでその曲「レフト・アローン」のリクエストを繰り返すようになります。
そしてある日、俊一を席に呼び
「なぜにお前の演奏はレコードと違うのか。」
と聞きます。
下町のキャバレーですからリクエストといえば演歌にムード歌謡、そのような場所でジャズの名曲をリクエストする相手がまさかジャズに対してド素人であるとは思いもしない俊一は滝川の問いを
「お前みたいな若造がジャッキー・マクリーン演ろうなんざ百年早いわ」
と嘲られたと思い
「ジャッキーが聞きたきゃレコード聴きやがれ!俺が出すのは矢代俊一の音だ!」
と啖呵を切ります。
普段は大人しい俊一ですが、かっとなると見境がつかなくなり相手がヤクザであろうがなかろうが、くってかかってしまうのです。

それから数日後、店が終わった早朝、いつもの練習場所である川原で俊一は滝川と再会します。
俊一に対する滝川の態度はうってかわって、まだ子供の俊一に敬語を使い尊敬の念さえ感じさせるものになっていました。
そして俊一は俊一で、滝川がまったくジャズを知らないこと、それでいて俊一の演奏時の気持ちの変化や他のメンバーとの違いなどを正確に言い当てたことに心底驚きます。

滝川が若い頃からジャズに触れる生活をしていたらどうなっていたんだろう、と考えることがあります。
その確かな耳と、ヤクザの世界とはいえ一目置かれる存在であった滝川がジャズを早くに知っていたら、楽器を持っていたら、やはりミュージシャンになっていたかもしれません。

同じ栗本作品で、やはりサックス奏者を主人公とした「死は優しく奪う」にもチョイ役で矢代俊一が出てきます。キャバレーの少しあとです。作中で俊一は、主人公の金井恭平について
「昔知ってたヤクザに似ている。」
と語るシーンがあります。

金井恭平は俊一とは違うタイプのミュージシャンで、骨太で男っぽい、それでいて暖かな音を出します。周囲からもボスと呼ばれ慕われています。確かに滝川と重なる面があります。

滝川がミュージシャンとして俊一と出会っていたら、二人の関係性はまったく違ったものになっていたかもしれません。
それはそれで読んでみたかったような気がします。
単行本の帯のコピ-「若さの残酷、ヤクザの優しさ」がこの作品を一言で表していて切ないです。

映画化、ミュージカル化されました。ミュージカルではサックスプレイヤーではなくタップダンサーに変更されています。おそらくサックスをプロとして吹ける役者が見つからなかったためではないかと思います。ダンサーならミュージカルの役者の本業ですからね。それにバンド入れてしまうと転換とか大変そうですもんね。


[DVD邦]キャバレー [主演:野村宏伸/鹿賀丈史/三原じゅん子/原作:栗本薫/1986年作品]/中古DVD【中古】【P10倍♪5/9(木)20時〜5/21(火)10時迄】


栗本薫・中島梓傑作電子全集13 [ハード・ボイルド]

「キャバレー」とその続編、「黄昏のローレライ」、黄昏のローレライにも登場するサックスプレーヤー金井恭平を主人公とする 「死は優しく奪う」その他数作のハードボイルド小説とエッセイが収録されています。


栗本薫・中島梓傑作電子全集7 [朝日のあたる家]

矢代俊一はこちらにも名前だけ出てきます。日本では作曲家としても名が通るようになってます。ジャズプレイヤーの中では一番有名かもしれません。

音楽漫画 いつもポケットにショパン あらすじとネタバレ


いつもポケットにショパン(全3巻セット) (集英社文庫) [ くらもちふさこ ]

少女漫画で初めての本格的な音楽漫画です。
クラシックの世界を舞台に、繊細で不器用な少女の揺れ動きながら成長する心を丁寧に綴った、くらもちふさこの初期の代表作。
須江麻子は有名ピアニストを母に持つ小学生。母にはピアノを教わらず、別の先生のところに幼馴染のきしんちゃん(緒方季晋)と一緒に通っています。きびしい母とはうまくいかず、きしんちゃんと、きしんちゃんのママの方に心を寄せる麻子でしたが、小学校の卒業を間近に控えたある日、きしんちゃんが日本の中学には進学せず、ドイツに留学すると聞かされます。
感情表現が苦手な麻子は、あっさりと流してしまい、きしんちゃんに
「あっけないんだな、麻子ちゃんは。」
と言われてしまうのです。

中学生になった麻子は、ドイツに行ったきしんちゃんとママが列車で事故にあい、ママが亡くなりきしんちゃんが失明という新聞記事を見てしまいます。そしてその時、きびしくて冷たいと思っていた母が涙を流すのを見てしまいます。

やがて麻子は、都内の音楽高校に進学し寮生活に入ります。麻子の希望はこの学校で一生懸命音楽の勉強をし、ドイツに留学して、きしんちゃんを探すこと。
麻子はきしんちゃんと会えるのか。

・・・会えます。ネタバレですが、この展開で「会えませんでした。」ってまずないですよね。
会えますが、勿論その先にいろいろとあります。

再会したきしんちゃんは、昔とは打って変わって麻子に辛くあたるのです。それは、麻子の母ときしんちゃんのママ、そして亡くなったと聞かされていた麻子の父の過去に関係する事柄でした。実はきしんちゃんのママは麻子の母をずっと憎んでいたのです。ドイツで失明したきしんちゃんは亡くなったママの角膜を移植します。自分の目になったママの思いがある限り、麻子母娘を憎まなければならない、麻子を好きになってはいけないと思い決めていたのです。

きしんちゃんのピアノは個性的で、コンクール向きではありません。そのため実力はずば抜けているのですが、優勝経験がなかったのです。上級生の上邑さんは麻子に、ほとんどの人は自分の個性を殺して教授のお気に入りのピアニストに収まる。それが日本に名ピアニストが育たない原因だと語ります。

ところがきしんちゃんは誰に何と言われても自分の個性を押し殺そうとはしない、まれにみる強さがある。つまり、こうと思ったことはやり通すとということで、麻子をママの代わりに憎み続ける気持ちも変えないのです。

感情表現が苦手だった麻子は、物語の序盤ではピアノも今ひとつパッとしない子でした。
有名ピアニストの娘、というプレッシャーも麻子のコンプレックスに拍車をかけ、素直に感情を出すことができない要因になっていました。
その麻子がピアノや音楽を本当に愛するようになってから、自己を素直に表現するようになり、それとともにピアノもぐんぐん上達していく過程が非常に読み応えがあります。そして母のことも少しづつ理解していき、それにつれ音楽に深みが出てくるのです。

公開講座を開講した麻子の母、愛子が受講生の女の子にキャベツの千切りを思い出して楽しく。と指導したところ、その子の母親が娘には包丁を持たせたことはない、ケガしたら困るから。あなたは自分の子供にはさせられるのか?と聞かれます。それに対する愛子の返答が

「麻子はシチューが得意です。」

それこそ得意げに、誇らしげに麻子の母が語るこのセリフが、物語のクライマックスに心に沁みていきます。不器用な麻子にあえて自分で髪を編ませることで、ワーキングマザーのためあまり一緒にいられない麻子の成長の目安にしてきた母が、ピアニストの卵であるにも関わらず麻子に包丁を使わせ、生活させるためにどんどん突き放したことを、麻子自身が悟り、初めて母の愛に包まれていたことを知る感動的なシーンです。

少女漫画ですが、大人になってから「わかる」作品です。麻子と自分を重ねる大人の女性が多いのもうなづけます。麻子と同年代のうちは、あまりピンとこないかもしれないですが、麻子の持つ「不器用さ」「自己表現の拙さ」が実は誰もが持っており、人によっては思春期に苦しむ要因にもなっていることがわかるようになる年代に、より強く響くのかもしれません。

また、出てくる大人が素敵です。まず絵がちゃんと「大人」です。最近の漫画によくある、高校生の顔にほうれい線を書き足しただけの大人ではありません。フェイスラインのたるみや目が下がり気味のところ、表情も歳と経験を重ねた大人の表情になっています。
そして大人としての態度を取ります。麻子の両親、恩師など、人生の先輩として毅然として子供に向き合います。

子供の絵も可愛いです。幼い頃の麻子ときしんちゃんや、須江家の別荘に送り込まれたピアノ少年の、丸くて柔らかい頬の感じ、高校生たちの表情も不安とプライドとが渾然一体となった、この時期特有の魅力があります。

音楽漫画 一気に紹介

坂道のアポロン

60年代の長崎県佐世保市を舞台に、ジャズを通して育む友情と青春の物語。

薫は船乗りの父の仕事の都合で横須賀から佐世保の高校に転校し、バンカラな一匹狼、川渕千太郎と出会う。それが薫とジャズとの出会いでもあった。やがて薫はジャズにのめり込み、初めての恋も知る。アニメ化、映画化作品

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いつもポケットにショパン

麻子は有名ピアニストを母に持ち、自らも音楽高校でピアノを勉強している女の子。麻子の望みはドイツに行ってしまった幼馴染のきしんちゃんと再会すること。

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気分はグルービー

80年代の茨城県水戸市を舞台に、高校生のロックバンドの青春の日々を描く。

憲二はクラスメイトの寿子に誘われて、ロックバンド「ピテカントロプスエレクトス」でドラムを叩くことになった。何をやっても長続きしない憲二が、挫折しそうになりながらも仲間とともに成長していく。

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僕のジョバンニ


海難事故で一人生き残った郁未は 、叫ぶ声を目指して必死で泳いだ。泳ぎ着いたその先で、鉄雄と出会った。叫び声は鉄雄の弾くチェロの音だった。天才と才能を望む者の葛藤のはじまりだった。

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BLUE GIANT

平成13年から平成16年の仙台、そして東京を舞台に、ジャズとサックスに魅せられた高校生。宮本大が世界一のプレイヤーを目指してひた走る物語。

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パルティータ

画像なし

一ノ宮由布は天才肌のバイオリニスト。音大に通う彼は、人と深く関わることを恐れていた。親友と呼べる相手もいるのだが、父親との確執が由布の性格に影を落としていた。そんな時、同じ大学の棚橋まりあに出会い・・・。