作品紹介

音楽漫画 僕のジョバンニ 4巻 あらすじとネタバレ

落ちこぼれトリオのライブ!ソルティドック


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鉄雄に自作曲でライブをやることを提案した縁は、乗り気ではない鉄雄をよそにどんどん話を進めます。まずバイオリニストとして、鉄雄と郁未が出たコンクールで百合子の弟子を騙った御手洗健太をスカウトします。御手洗はバイオリンからチェロに転向したのでバイオリンも弾けるのです。

さらにライブ会場として、縁のバイト先の喫茶店を選んでありました。喫茶店ではじめて御手洗と音合わせをした鉄雄は、御手洗がチェロよりバイオリンの方が巧いことに気づきます。御手洗は音楽一家に育ち父親も兄姉も国内で入賞経験がある中ので落ちこぼれで、バイオリンでは一番になれないからチェロに転向したと語ります。

それを聞いた鉄雄は、

「コンクール嫌いのピアニスト、音楽一家の落ちこぼれ、師匠が有名なだけの凡人」

3人の落ちこぼれライブだと言い、面白いライブにする、とやる気になるのでした。

オリジナル曲だけのライブの難しさを知るマスターの松浦の提案で、ライブ曲をあらかじめ録音した音源をライブの日の二週間前から店のBGMとして流すことになります。宅録ができることで鉄雄のテンションは一気にあがるのでした。

トリオ名はソルティドッグ。カクテルの名前ではなく、「しょっぱい負け犬」という意味です。ライブ当日の一曲目はオリジナルではなく、キング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マンバリバリのプログレです。キンクリは今でも現役ですが、録音自体は1969年、喫茶店の常連客も大半が子供か、まだ生まれていないかです。それを現在の高校生が演ってしまうのですから、それだけでも注目は集まります。そこに鉄雄の超絶アレンジ、そしてぶっ続けでオリジナルに入る展開で、客席を完璧に掴みます。この辺は、イタリアでジャズクラブ等にも入り浸っていた鉄雄がライブというものをよく知っていたためにできること、と言えるでしょう

鉄雄は演りながら、

「ああ・・・俺、本当に 音楽が好きだな

と幸福感に満たされていきます。さらにハプニングもあり騒ぎになりましたが、その際の松浦の言葉も鉄雄の心に響きます。ライブを終えて、鉄雄は何かをつかんだように感じるのでした。

哲郎に思いがけない仕事のオファー。

哲郎は鉄雄が少し変わったことに気づきます。そして、百合子に自分がもっとしっかりしていたら鉄雄と郁未はここまでこじれなかったかもしれない、と思いを打ち明けます。自分がチェロをやめてから、一人で弾くしかなくなった鉄雄がどれだけ孤独だったか、鉄雄を孤独にしたのは自分で、それが郁未を追い詰めることにつながったのではないか、哲郎は一人思い悩んでいたのでした。百合子は哲郎に、自分を責めるなと伝えます。お前は一人でしょい込みすぎるとも言います。

そんな時、哲郎の勤めるメンタルトレーナーの事務所に、哲郎を指名する仕事が舞い込みます。クライアントは橘郁未。郁未と手塚兄弟が関わりが深いことを知る郁未のマネージャーからのオファーでした。

現在の鉄雄と郁未の関係を鑑み依頼を断ろうとする哲郎ですが、事務所所長の説得もあり、一度だけでも郁未に会ってみようと依頼を受けます。郁未は数時間の面談の間哲郎の語りかけにも拒否を示し、面談は失敗だったと思う哲郎でしたが、マネージャーは面談終了間近に初めて郁未が自分から人に話しかけるところを見たと言い、再度の面談を依頼するのでした。

哲郎は郁未との面談で、一緒に暮らしていた頃の昔話をするのでした。話をするのは主に哲郎で、郁未は哲郎の問いかけに答えるだけなのですが、その郁未の記憶があまりにも鮮明で哲郎はそれに驚き、東京へ出てきてからの郁未の孤独と帰国して仲間が増えた鉄雄を思います。

鉄雄は再度コンクールに出ることを決めます。百合子はその、カルミナ国際コンクールに、郁未と対をなすもう一人の天才高校生チェリストが出ることを聞きつけます。もう一人の天才、皆川優(みながわ まさる)は郁未が出ることを期待しての出場らしいこともです。そして郁未は鉄雄が出るからカルミナ国際に出るはずだと、鉄雄は言い切ります。

御手洗に、郁未との関係を聞かれた鉄雄は

「・・・トモダチ」

と切ない表情で答えるのでした。

4巻で使われた曲はこちら

ソルティドックのファーストライブ1曲目、キングクリムゾンの名曲です。ここに聖夜の深井が客としていたら大喜びしそうです。1980年にプログレはもう終わったと嘆いていた彼ですが、この曲は1969年、全盛期の頃です。

ダウンロード版


21世紀のスキッツォイド・マン

収録アルバム新品/中古


クリムゾン・キングの宮殿(K2HD/紙ジャケット仕様)

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百合子がコンサート直前に、スポンサーの意向で予定に入れてないのに弾くように要請されブチ切れた曲。鉄雄の説得で弾くことになりました。。

 


亡き王女のためのパヴァーヌ


ラヴェル : 亡き王女の為のパヴァーヌ/マックス・エシーク社/ピアノ伴奏付チェロ・ソロ用編曲楽譜

 

1巻はこちら

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音楽漫画 僕のジョバンニ 3巻 あらすじとネタバレ

5年ぶりに再会した鉄雄と郁未


僕のジョバンニ(3) (フラワーコミックス) [ 穂積 ]

さて、2巻のラスト、コンクールで再会した鉄雄と郁未でしたが、どのような再会だったのでしょうか。

「久しぶりだな。」

と話しかける鉄雄、それに対する郁未は、

「なぜお前がここにいる。」

と冷たい表情で返します。郁未は鉄雄に、自分を恐れてイタリアに逃げたお前に、日本での居場所なんかない。と告げます。鉄雄は、昔から自分の居場所なんかなかった。日本に帰ってきたのは、0からはじめるためだと答えるのでした。確かにコンクール会場では、郁未の名前は知れ渡り恐れられ、鉄雄は「見ない顔」とされています。

縁は郁未のことを語る鉄雄の表情で何らかを悟り、

「鉄雄は鉄雄の演奏をしたらいい。」

と話します。今後、この縁の洞察力や思いやりが要所要所でうまく働いていくのです。若いのに大した子です。百合子の推薦で鉄雄の伴奏者になった縁ですが、ピアノの実力だけでなく人柄も合わせて鉄雄と相性がいいと考えての推薦だったのではないかと思います。結構言いたいこと言ってるように見えて、本当に言ってはならないことは言わない、取得選択能力もあります。伴奏者として最適なのです。

郁未の圧倒的才能の前に、崩れていく出場者たち。果たして鉄雄は?

演奏順は郁未がトップです。既に名が通っている奏者がトップで演奏することが実際にあるかどうかはわかりませんが、最初に郁未の演奏を聴いた出場者が皆、調子をくずして実力を発揮できないで演奏を終えてしまいます。郁未の見せる圧倒的な実力や才能の違いに、自分を失ってしまったのです。そしていよいよ鉄雄の出番が来ました。

会場の空気はまだ、最初の郁未の演奏に支配されたままです。鉄雄の出番は休憩をはさんで14番目です。郁未の演奏がどれだけ強烈だったかわかりますね。はらはらして哲郎が見守る中、鉄雄の演奏がはじまります。

鉄雄の演奏は会場の空気を一気に変えました。感情を十分に乗せた、個性的で直観的な演奏です。それが実は緻密な計算の上に成り立つものだと気づいた人は、客席の中には二人しかいませんでした。

その、完璧なはずの世界が、客席の郁未の姿を見たとたん崩れてしまったのです。縁がなんとか合わせにいこうとしますが、立ち直れないまま鉄雄の出番は終わってしまいます。鉄雄は予選落ち、さらにその直後、郁未が本選を辞退します。繰り上げの通過者にも鉄雄の名前はありませんでした。

どう言葉をかけていいかわからない哲郎に鉄雄は、

「ものすごく悔しい。」

「でも、これが俺の今の実力。」

「過去の成績とか、師匠が誰かとか、そういったものをすべてとっぱらったところから始める。」

と告げます。

百合子の突然の帰国。いったいなぜ?

ある日、公園でチェロを弾く鉄雄の前に郁未が現れ、

「これほどの実力があって、なぜコンクールではあんな演奏をした!」

と鉄雄を責めます。コンクールでの鉄雄の演奏が、技巧だけで作り上げたものだということに気づいていた一人は郁未でした。郁未は昔の鉄雄の演奏の方が好きだとも言います。そして自分と鉄雄の間にチェロ以外に何がある?と聞き、

「自分は上に行く。お前はそこでそうしてろ。」

と言い残して去っていったのです。

そんな中、百合子が突然帰国します。空港に迎えに行った鉄雄たち兄弟と縁。百合子は会うなり鉄雄に旅行鞄で鉄拳を食らわせます。

「人前で技巧だけの演奏をすることを、お前に固く禁じていたはずだ。」

返答次第では破門にする、と百合子は言います。鉄雄の演奏の真意に気づいていたもう一人は、審査員で百合子の知人だったのです。

鉄雄の演奏は過去の演奏家達の完璧な模倣をつなぎ合わせたもので、模倣としてクオリティが高くそのためかえって、鉄雄の欲とあざとさが耳についたとその審査員は言ったのです。

「小賢しい」

百合子の説教はさらに続きます。模倣を否定するわけじゃない。あくまで自分の表現を高める手段の一つとして有効。

「どう飲み込んで解釈して消化するかの方がはるかに重要。その工程を経て初めて、技は揺るぎない自身の血肉となる。」

その工程を省いた鉄雄の演奏は、お前である必要があるのか、と。

鉄雄はそれに対して、試してみたかったのだと答えるのでした。その方が作者の意に沿う演奏になると思ったともいいます。哲郎は鉄雄のその言葉を聞き、鉄雄は作曲家になりたいのではないかと思うのでした。そして鉄雄は百合子に謝ります。

鉄雄はイタリアでの生活を哲郎と縁に話して聞かせます。留学先での他の生徒たちとの技術のあまりの違いに打ちのめされ、焦り、追い詰められていく鉄雄に百合子は、鉄雄を弟子にした理由を語ります。

「面白い、と思った。」

そして、

「お前がお前であることを、希望にするか絶望にするかはお前しだいだ。」

と告げます。

「まず自分で自分を愛せ。それが弟子になる第一条件だ。」と。

それから百合子は、鉄雄にチェロを続けるために必要なことを、そして作曲家になるために必要なことを教え込みます。鉄雄が夜中にこっそり曲を書いていることを、百合子はとっくに知っていたのでした。

イタリアでの生活は、百合子がいかに弟子としての鉄雄を愛していたかが伝わるシーンが多くあります。また百合子が鉄雄に語る言葉も深みがあります。あらすじの一つとしてダイジェストで語っても伝わらないので、ここには書きません。ぜひ原作を読んでみてください。特に表現者であれば深く刺さるものが多いと思います。

縁はある日、鉄雄の描いた曲の譜面を発見し、ピアノで弾いてみます。そして鉄雄に

「これを人前でやらないか。」

と提案するのでした。すなわち、ライブをやってみないか、と。

3巻で使用した曲はこちら

鉄雄がコンク-ルで弾いた曲


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ちなみに郁未がトップで弾いたのは、百合子の演奏を聴いて一週間で覚えた難曲

一方公園で、郁未にペンチで弦を切られながら弾いていたのはこちら。


楽譜 パガニーニ/ロッシーニのオペラ「モーゼ」の主題によるG線での変奏曲(モーゼ幻想曲)(【734733】/2344/チェロとピアノ/輸入楽譜(T))

1巻はこちら

2巻はこちら

4巻はこちら

5巻は9/10頃発売予定

音楽漫画 僕のジョバンニ 2巻 あらすじとネタバレ

郁未のまれにみるチェロの才能に、鉄雄は・・・。


百合子の弾く難曲、ドボルザークのチェロ協奏曲を自分が簡単に弾けるようになれば鉄雄が喜ぶ、そう信じて鉄雄へのプレゼントとしてこの曲を弾く郁未。ところが鉄雄は郁未のまれにみる才能と、それを自分が持っていないことに同時に気づき、深く打ちのめされるのでした。チェロをやめた兄、哲郎は

「お前を憎みたくなかったから、チェロをやめた。」

と伝えます。哲郎は鉄雄の才能に屈し、弟を憎まないうちにチェロをやめたのでした。

鉄雄がずっとあこがれて自らから放ちたかった音を、郁未が奏でるのを聴いてしまい、友達なのに郁未が憎いと泣きじゃくります。その鉄雄に何も言ってやる言葉がみつからないと、かつて同じ思いを当の弟に抱いた兄は弟を抱きしめます。

哲郎は二人がどうにか折り合いをつけてこれまで通りの友達でいてほしいと願いますが、百合子は、折り合いなどつけたら鉄雄はその瞬間、チェリストとして死ぬ、と言います。残酷な世界で苦しみながらでもチェロを離さない、生半可ではない覚悟が必要だと。

鉄雄は郁未に、気持ちをぶつけてしまいます。

「俺のチェロを返せ!」

鉄雄しかいない郁未は、彼から向けられる憎しみに大きく傷つきます。それはチェロしかない鉄雄の苦しみと同質のもののようにも思えます。郁未は、チェロをやめたら鉄雄の友達でいられる、という哲郎の言葉に、鉄雄の特別でいるためにチェロをやめない、と告げます。鉄雄と郁未とチェロの三角関係がはじまったようです。哲郎は、郁未の鉄雄に対する執着に恐怖すら感じます。

一方鉄雄は、百合子に弟子にしてくれ、と頼みます。一度は断った百合子ですが、彼女いわく「気まぐれ」で鉄雄を弟子にするのでした。鉄雄は小学校卒業を待たずに百合子とイタリアに旅立ちます。

鉄雄はイタリアへ、一方郁未は

5年後、日本に帰ってきた鉄雄が最初に目にしたのは、既に有名チェリストとなっている郁未の姿でした。郁未の存在で日本にはチェロブームが起きていたのです。鉄雄は東京で哲郎と同居生活に入ります。哲郎は一浪して入った大学を中退し、スポーツ心理学を専攻できる大学に入りなおしました。今は演奏家専門のメンタル・トレーナーとして事務所に勤務しています。

鉄雄は帰国してすぐ伴奏者を探しますが、候補から次々断られてしまいます。鉄雄が変わってしまっているようで哲郎は心配になります。そこに現れたのが成田縁(なりた ゆかり)音楽高校ピアノ科の生徒です。彼女なら鉄雄と合うのではないかと百合子から紹介されたのです。

鉄雄の演奏は個性的過ぎて、今までの伴奏候補が誰も合わせられなかったため断られていたことを、哲郎は悟ります。そして、縁は鉄雄の演奏は個性的なのではない、技術でびっちり個性的に聴こえるように作りこんであることを看破します。鉄雄についてこられたのは縁が初めてだったようです。鉄雄と縁はお互いを認め合い、縁は鉄雄の伴奏者となります。縁は鉄雄の伴奏を楽しんでいたことを告げます。鉄雄は小規模のコンクールに出場することになり、その会場で郁未と再会します。

鉄雄が郁未の怪物的な才能の前に、なすすべもなく泣きじゃくるシーン、読んでいてこちらが苦しくなります。百合子の言うとおり、残酷な世界なのです。そして、鉄雄とも郁未とも違って何にもとらわれていない縁の存在が、鉄雄に新しい風を送るように感じます。伴奏者に縁を得て、鉄雄がどのように変わっていくのか楽しみです。

2巻で使われた曲はこちら

鉄雄と縁の初顔合わせの時にやったリベルタンゴはこちらの一曲目です。


ヨーヨーマ・プレイズ・ピアソラ/ヨーヨー・マ[CD]【返品種別A】


ピアノ 楽譜 ピアソラ | リベルタンゴ(ピアノソロ)

youtubeからはちょっと珍しいピアニカバージョンをどうぞ(クリックでyoutubeへ)

 

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音楽漫画 僕のジョバンニ 1巻 あらすじとネタバレ


僕のジョバンニ(1) (フラワーコミックス) [ 穂積 ]

僕のジョバンニは穂積さん作、現在連載中のチェロ弾きの少年二人の物語です。天賦の才能と努力の天才の二つの才能のぶつかり合いがストーリーの軸になっています。現在4巻まで発売中。未完結作品なので、1巻づつ紹介していきます。

手塚鉄雄は小学生。海沿いの小さな町でただ一人チェロを弾く子供です。以前一緒にチェロを弾いていた兄の哲郎はすでにチェロを辞めており、学校の友達もチェロに対する鉄雄の思いなど到底理解できるはずもなく、孤独な日々を送っています。鉄雄のチェロの腕前は小学生ながら大きな大会で優勝するほどですが、鉄雄は一人ではなく誰かと弾きたいのです。哲郎にもう一度弾いてほしい、一緒にやってほしいと頼みますが、鉄雄を可愛がっている哲郎は
「それだけはできない。」
と断るのでした。

橘・A・郁未(たちばな・アレックス・いくみ)は海難事故のただ一人の生存者として鉄雄の住む町に流れ着きます。郁未は海に投げ出されたとき自分を呼ぶ声を聞き、その声の元に必死に泳ぎ着きます。実はその声は鉄雄の弾くチェロの音色だったのです。郁未はその事故で母親を亡くし、外国人の父親も親戚もまったく頼るもののいない孤児となってしまいました。身元引受人がいないため、鉄雄の家に預けられることになります。

初めて会った郁未は口をきかず、鉄雄は郁未に
「お前、愛想ねえな。」
と言い放ちます。
ある日、鉄雄は弾くチェロを耳にした郁未は、海で自分を呼ぶ叫び声が鉄雄のチェロだったと悟ります。
それから郁未は、鉄雄のそばを離れず毎日チェロを聴くのでした。

郁未は哲郎から、鉄雄がいつも弾いている曲「チェロよ、叫べ」が本来は2挺で弾く曲だと聞き、自分が弾くから教えろと鉄雄に頼み、鉄雄は喜んで郁未に基礎からチェロを仕込みます。郁未は鉄雄の、誰にも理解されないという孤独を知り、それを「天才の孤独」と呼びます。郁未は自分だけは一生友達でいると誓うのでした。
「鉄雄は太陽の匂いがする。だから、お前を絶対に裏切らない。」

鉄雄と郁未の友情が深まっていったある日、手塚兄弟の祖父の古い知り合いでプロのチェリストの曽我百合子が手塚家にやってきます。
いつの頃からか百合子を苦手とするようになった鉄雄は浮かない顔です。それを知った郁未は自分も百合子とは口をきかないと言います。鉄雄は百合子から数年前に言われたある言葉に呪縛され苦しんでいました。

郁未は手塚家に正式に引き取られます。姓が変わっていないので、おそらく里子なのでしょう。郁未は鉄雄にだけ心を開き、少しでも離れることを嫌がります。その郁未を見て、手塚家の両親が郁未を引き取ることを決めたのです。今、鉄雄を引き離すことはできないと考えたのでした。郁未の鉄雄に対する感情は、友情というには激しすぎるものでした。

百合子は毎年夏に一か月ほど手塚家に滞在します。鉄雄が栃木の母方の祖父の家に遊びに行っていた一週間で、郁未は百合子の弾く曲を聴いて覚え、真似して弾けるようになります。その演奏を鉄雄に聴かせ、
「簡単だった。だから百合子なんて大したことない。あいつの言葉なんかで苦しむな。」
郁未は鉄雄を励まし、喜ばせるつもりで言ったのです。が、それは百合子に言われた言葉よりも何倍も深く鉄雄を傷つけます。
郁未が一週間で耳コピしたその曲は、チェロの曲の中でも最も難曲とされる曲でした。そして、鉄雄はまだその曲を弾けないのです。
本当の天才は郁未だったのです。これで鉄雄を百合子のかけた呪いから救うことができたと信じ、満面に幸せそうな笑みを浮かべる郁未と、この世の終わりのような絶望的な表情の鉄雄のアップが読む方も辛くなります。まだ小学生の二人が、これから才能というものに苦しむことを予感させます。一人は才能がない故に、もう一人は才能がある故に。

郁未がチェロをはじめたのは鉄雄を一人にしないためで、鉄雄が2挺のチェロで合わせたがっていた「チェロよ、叫べ!」を二人で弾くためです。この「チェロよ、叫べ」は架空の曲ですが、モデルとなっているのは「チェロよ、歌え」という曲です。歌うを通り越して叫んでしまうんです。その叫びは鉄雄の孤独の叫びであり、その声を聞いた郁未を引きつけ、命を救った叫びなのでしょう。これから成長していく二人がどうなるか、楽しみに追っていきます。

「チェロよ、叫べ!」のモデルとなった「チェロよ、歌え」はこちら。


【輸入盤】ホーナー:パ・ド・ドゥ、ペルト:フラトレス、ソッリマ:チェロよ歌え!、エイナウディ:希望の扉 サムエルセン兄妹、ペトレンコ&リヴ [ James Horner ]

【輸入楽譜】ソッリマ, Giovanni: チェロよ歌え!(8本のチェロ): パート譜セット [ ソッリマ, Giovanni ]

郁未が一週間で耳コピした難曲、チェロ協奏曲はこちら


ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 他、エルガー:チェロ協奏曲 他 [ ジャクリーヌ・デュ・プレ ]


日本語ライセンス版 ドヴォルジャーク : チェロ協奏曲ロ短調op.104 小型スコア スプラフォン社日本語ライセンス版

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気分はグルービーと聖夜に登場する曲(聖夜編)

気分はグルービー編はこちら

さて、本日は聖夜に登場する曲のうち、ロックの紹介です。クラシックや現代音楽についてはまた今度。聖夜の主人公、一哉はキース・エマーソンに衝撃を受け、オルガンの入ったロックやジャズを片っ端から聴くようになります。ネットのない時代ですからラジオです。この頃は中学生くらいからラジオを聴き始め、深夜放送にはまるのが一般的でした。エア・チェック(FM放送から音楽をカセットテープに録音すること)が流行っていた頃です。

Tarkus/Emerson, Lake & Palmer (クリックでyoutubeへ)

一哉が自宅の教会の礼拝堂で練習している曲です。教会からEL&Pが流れていたらびっくりしますが、ちょっといいな、とも思ってしまいました。短めバージョンです。それでも10分近いです。

展覧会の絵/Emerson,Lake&Palmer(クリックでyoutubeへ)

一哉の日課は、祖母の部屋でオルガンを弾いて聴かせることです。この日、元ネタのムソルグスキーの展覧会の絵を弾いていたのですが、最後にちょっとだけEL&Pバージョンを弾きます。そしてある日、学校の礼拝の後奏で同じ曲を弾いて、それを聴いた深井に声を掛けられるのです。後奏とは、礼拝の参加者が礼拝堂を出る時に弾く曲です。これで退場するの大変そうですよね。フルバージョンです。40分あるのでお時間あるときにどうぞ。

Love Beach/Emerson, Lake & Palmer -(クリックでyoutubeへ)

深井に「あれ、聴いたか?」と聞かれるEL&Pのアルバムから、タイトル曲です。この後、深井は「今のプログレはもうだめだ。」と語ります。プログレの最盛期は70年代前半、80年代には音楽シーンがガラッと変わります。パンクが生まれ、AORが台頭します。深井はプログレの終焉を見据えながら、語る相手がいなかったのを一哉に一気にぶつけるように喋り続けるのでした。

Kid Charlemagne/Steely Dan – (クリックでyoutubeへ)

Sign in Stranger/Steely Dan- (クリックでyoutubeへ)

深井の部屋で聴かされた、スティーリー・ダンのアルバム「The Royal Scam」より深井お勧めの1曲目と一哉が気に入った4曲目。

彩/Steely Dan-(クリックでyoutubeへ)

次にかけたアルバムをフルバージョンで。ちなみに二人が気に入ったのは「The Royal Scam」の方です。

Romantic Warrior/Return To Forever –  (クリックでyoutubeへ)

深井の家で聴いた最後のアルバムです。この後、二人は「アーバン」のライブを聴きに行きます。

先日のグルービーの曲と合わせ、80年初めの高校生が演奏していた曲のだいたいの傾向がつかめたでしょうか。バンドサウンドが主流になり音が厚くなってきましたが、まだギター一本で弾き語りも健在でした。それにしても深井くん、音楽的に早熟ですね。

そしてアーバンの笹本さんです。一哉の見立てでは20代半ばくらい。一哉たちより8歳位年上だとします。すると72年に高3です。アポロン世代が66年に高2ですから、笹本さんは薫たちの5歳下です。当時はフォークブームではありましたが、当時の高校生がEL&Pとか演ってたんでしょうか。

演ってたらしいです。プログレの他にブルース、ハードロック、スティーリー・ダンにリトル・フィート、クルセイダーズにスタッフなど、深井だけじゃなく音楽的に早熟な高校生がたくさんいました。音楽の世界が豊かだった時代です。密かにフォークソングを馬鹿にしてたという話も聞いたことがあります。余談ですが。

その笹本さんのセット、ハモンドとエレピを直角に置き、エレピの上にシンセを置いています。エレピはローズでしょうか。



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このセッティングは寿子もよく使っています。寿子は自分のシンセ一台以外は現場にあるものを使っているようです。シンセは見た感じDX7かと思ったのですが、DX7は83年5月発売、83年は寿子は高3です。3年生になってからシンセが出てきたならDX7の可能性もあるのですが、2年生で出てきてしまうので違いますね。

残念だな。なんとなく寿子にDX7持っていて欲しかった。

DX7

DX7 これが出てから歴史がまた一つ動いたといっても過言ではない、名器です。

機材の話、面白いので改めて別に記事 にしてみようかな。

こちらなら絶版の気分はグルービーも買えますよ。

もったいない本舗

気分はグルービーと聖夜に登場する曲(グルービー編)

気分はグルービーの舞台は81年~84年、物語の初めで大将が高校2年、後の4人は高校1年です。当時はTOTOやシカゴが日本でヒットを飛ばしAORのブームがきた頃ですが、ピテカンがカバーしている曲はもう少しだけ前の曲が多いです。これは作者の佐藤宏之さんが61年の生まれだからでしょう。

また、聖夜の舞台は80年、グルービーの一年前で一哉や深井が高校3年、天野と青木が高校2年です。だいたい同じ年代ですね。作者の佐藤多佳子さんは65年生まれ、ピテカンメンバーのうち憲二、稲村、奥ちゃんと一緒です。(寿子はダブりなので64年生まれ)

なので、グルービーと聖夜に出てくる曲をピックアップしていきます。80年代の高校生が好んでよくカバーしていた曲特集です。本日はグルービー編。

Black dog/Led Zeppelin クリックでyoutubeへ

ピテカンがS&Nのテープ審査用に録音した曲。作中ではツェッペリンのブラックナイトとありますが、ブラックナイトはディープパープルの曲。作中にキーボードがないというセリフがあるので(1巻131p)おそらくブラックドッグの誤植かと思われます。
どちらにしても70年代初めの曲ですね。いやぁ!ロバート・プラントってやっぱり歌上手い。

The answer/Frank Marino クリックでyoutubeへ

ピテカンが合宿で練習する曲。憲二の妹、かおりがアポなしでやってきた回です。(2巻128p)

you’re like a doll baby/Johnny,Louis&Char クリックでyoutubeへ

ピンククラウドに改名する前のアルバム曲です。どのシーンで出てきたのか見つけられなかったのですが、演っているのは確かです。

China Grove/The Doobie Brothers  クリックでyoutubeへ

73年です。個人的に大好きな曲。合宿中の海の家でのライブ(4巻141p)手違いで合宿所が使えなくて困っている時、海の家の親父に拾われて昼間はスタッフとして働き、夜練習していました。

横浜ホンキートンク・ブルース/松田優作 クリックでyoutubeへ

イブのライブでの曲です。いろんな人がカバーしていますが、やはりここは松田優作で。

以下はピテカンラストライブの曲です。憲二が本間のおっちゃんと稲村と一緒にやることを決意してから、寿子との別れ、そして最後に稲村と二人、水戸を出るために街はずれのトンネルを抜けるラストシーンまでと、ラストライブのシーンが交互に描かれます。この一連の流れがあるため、気分はグルービーは連載終了後40年近く過ぎても今なお心に残る名作となっているのだと思います。

Smoke on the water/Deep Purple (クリックでyoutubeへ)

a part of your life/Kris Kristofferson&Rita Coolidge (クリックでyoutubeへ)

憲二と寿子がギター一本デュエットする曲。
寿子が歌いながら涙してしまうシーンです。このシーンに重ねるように二人の別れのシーンが描かれます。

Born to be wild/Steppenwolf (クリックでyoutubeへ)

映画「Easy Rider」の主題歌でしたね。

Purple Haze/The Jimi Hendrix Experience  (クリックでyoutubeへ)

This Guitar /George Harrison (クリックでyoutubeへ)

ピテカンの選曲は、割と有名どころを中心にバラエティにとんだ選曲になってます。
好きな曲はこだわらずにやってみるところもアマチュアらしくていいです。でも、根底にあるのはストレートなロックです。コンテスト用にフュージョン風の難しいアレンジを持ってきた大将が

「ピテカンがロックンロールバンドなんて誰が決めた?」

と問い、憲二が言葉に詰まるシーンがありますが、やはりピテカンはロックンロールバンドですね。この時は大将もそれを認め、アレンジを元のロックンロールに戻すのでした。

ところで作中、TOTOの曲を演奏するシーンは見当たらないのですが、TODOというバンドのライブを見に行くシーンがあります。
舞台である水戸市にTOTOが来たという話は聞いたことがないのですが、エリック・クラプトンやBBキング、マリーナ・ショーなどは来ています。今はなかなか地方都市にまで来ないですね。少し寂しいです。

聖夜は次回に。

音楽小説 聖夜 あらすじとネタバレ

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聖夜 (文春文庫) [ 佐藤 多佳子 ]
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「聖夜」は、佐藤多佳子作のミッションスクールのオルガン部に所属する高校生、鳴海一哉の物語です。牧師を父に持つ一哉は、父と祖母の三人暮らし。幼い頃から教会のオルガンを身近に感じながら育った一哉はオリヴィエ・メシアンの曲にチャレンジする一方、キース・エマーソンに心を魅かれています。自宅は教会ですが神は信じていません。信じていませんが、学校では聖書研究会にも入っています。
 
元ピアニストの母はドイツ留学中に父と知り合い、牧師夫人となってからは礼拝で弾くためオルガンを学びはじめます。ところが、一哉が十歳の頃両親が離婚します。母は
「オルガンの師匠と結婚してドイツに行く、一哉も連れていく。」
と言いますが、一哉はそれを断り日本で父と祖母の暮らすことを選ぶのでした。一哉は母が許せなかったのです。父を裏切ったことではなく、母が母でなくなったことをです。
 
小6の頃、一哉はテレビでEL&P(エマーソン、レイク&パーマー)を知ります。キーボードのキース・エマーソンがナイフをオルガンに突き立てる映像は一哉の心に衝撃を与えます。この男は悪魔か?と思い、それと同時にこれだ、これがやりたいんだと悟ります。母の残していったオルガンにナイフを突き立てたいと思ったのです。それからEL&Pのレコードを買って耳コピをはじめるようになります。EL&Pを耳コピするというだけでも、相当耳がいいのでしょう。案の定、一哉は絶対音感を持っており、生活音を次から次へと五線譜に書き込むということもしているのです。
 
オルガン部の後輩、天野真弓は技術的には平凡だけれども、音楽的に非凡なものを持っていると一哉は感じています。譜読みが遅く、なかなか曲が完成しない天野の音は、どこにいても届き、彼女の弾く音だとわかるほど美しく個性があったのです。それは子供の頃からピアノやオルガンに親しみ、絶対音感も持っている一哉にはない、生まれ持ったセンスや才能なのです。一哉は天野に
「あんたは演奏者だ。」
と告げます。
 
高校の礼拝の奏楽はオルガンの部員が交代で担当します。一哉は当番の日、イライラをぶつけるように「展覧会の絵」をEL&Pバージョンで弾きます。先生には叱られますが、それを聴いた同じクラスの深井にEL&P好きなのか?と問われます。深井は実はギタリストで、EL&Pもよく聴くのでした。兄の影響でディープパープルやレッドツェッペリンを聴くようになった話から、プログレにはまってキング・クリムゾンやイエス、ピンク・フロイドの話を夢中になって聞かせたあげく、今好きなのはラリー・カールトンだと話します。ところが、一哉はEL&P以外は知らないのでチンプンカンプンなのでした。
深井の知り合いの社会人バンドがEL&Pのコピーもやっていると聞き、興味を持った一哉に深井は今度一緒に聴きに行こうと誘います。
 
文化祭の日、一哉はオルガン部の演奏をすっぽかして深井とライブを見に行きます。
初めての生の音は一哉の心を揺さぶり、深井の知り合いのバンドのキーボーディスト、笹本さんに一哉は質問します。
「キース・エマーソンは破壊者ですか?解放者ですか?」
笹本さんはそれに答えて
「キースは音楽家だよ。」
と言います。その言葉に一哉は感動を覚えるのでした。
終電を逃し、深井の家に泊まって翌日帰宅した一哉は、父に叱られます。その時に、いつでも清く正しい聖職者であると思っていた父の犯した罪を知らされます。
 
ラストシーンはオルガン部のクリスマスコンサートのリハーサルです。天野の弾くバッハを聴いた一哉の心の中に
「神様!」
と思いがけない言葉が浮かびます。
そして、クリスチャンではない天野の弾くバッハに神が宿ると感じるのでした。
 
佐藤多佳子さんらしく取材が行き届いた作品です。そのため、音楽について結構突っ込んだ話が随所に盛り込まれ、そちらでも楽しめます。オルガンの話は勉強になります。
ライブを聴きに行く前に深井の家でレコードを聴くのですが、その選曲も高校生にしてはマニアックで面白いです。
一哉は深井に、一緒にバンドをやろうと誘われ、まだバンドをやることはイメージできないが、曲を書いて深井に渡してみよう、と思うのでした。
 

ジャズ漫画 坂道のアポロンに見る60年代の音楽事情

物語の舞台となる1960年代は、64年に東京オリンピックがあり66年にビートルズが初来日、まだまだ貧しかった日本ですが明るい希望に満ちていた時代でもあります。
ジャズはもちろんのことロックやフォークも台頭してきて、ビートルズやストーンズが日本中を騒がせ、一方でPPMやボブ・ディランもヒットチャートを賑わせていた、いわば世界的な音楽シーンの黄金期の始まりともいえるでしょう。日本では69年から中津川フォークジャンボリーが中津川市(現在)で開催されています。日本初の野外フェスです。中津川フォークジャンボリーはウッドストックよりも数か月前に開催されていたのです。
この頃から学生が自ら楽器を手にし、自己表現をするようになってきました。フォークジャンボリーにはアマチュアの飛び入りコーナーもあったのです。岡林信康、五つの赤い風船、高石ともやなどが活躍していた時代です。

さらに千太郎の弟妹、幸や康太の世代が高校に入る頃には日本はかぐや姫など四畳半フォークが盛んで、フォークソング同好会や軽音楽部のある高校も増えてきたようです。
上手い下手にかかわらずスリーフィンガーはやカーターファミリーは多くの高校生が弾けたとも聞きます。
ただ、今のようにネットなどにより、どこに住んでいても情報が共有できる時代ではありませんでしたから、手探りで音楽を作っていくしかなかった部分もありました。フォークギターの弾き方を教わる相手は学校の先輩や近所に住む高校生や大学生、兄弟などでした。Fのコードが難関で、セーハできないで挫折する人も多かったため、二人のギタリストの内一人は「F係」Fだけを弾くために一緒にステージに立って、Fを待ち構えて渾身の力を込めてセーハしていたという笑い話のようなこともあったということです。

坂道のアポロンの本編が終了後スピンオフとして掲載された作中では、次世代の影もちらついてきます。アポロンジュニア世代は団塊ジュニアでもありますね。ちょうど音楽に興味を持ち始め、楽器が欲しくなる年齢に差し掛かったころの人気番組が「いかす!バンド天国」でした。なので、迎勉さんが孫に
「ジャズやっとけ。」
と口ではいいながら、ムカエレコード店に「たま」のCDを置いたりしてたかも知れません。

そして令和を迎えた今、迎勉さんのひ孫世代が中高生の頃です。
音楽は今やCDですらなくダウンロードとyoutube、楽器がまったく弾けない作曲家が出現するこの時代、迎家のひ孫が熱中する音楽とは、意外とジャズかもしれません。

というのも、ライブハウスやスタジオで出会う20代くらいの若者の中には、
「ジャクソン・ブラウン大好きなんです。」
「好きなミュージシャンはニール・ヤングとザ・バンドです。」
という人も結構いるのです。ご両親の影響だそうです。子供の頃から馴染んだ音楽なのですね。
音楽がこのように世代から世代へ受け継がれていく、これって素晴らしいことだと思います。

また、最近の音楽はコードが複雑でお洒落なものが多いのですが、それをやってみたいと思った時にはジャズの勉強が不可欠なのです。そこからジャズに興味を持ち祖父や曾祖父に教えを乞うひ孫、なんていいですね。

ところで百合香さんの生んだ子供のうちどちらかは、母親の才能を引き継いでコミケで同人誌売ってそうな気がするのは私だけでしょうね。


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ロック漫画 気分はグルービー あらすじとネタバレ


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1980年代の茨城県水戸市を舞台に、アマチュアロックバンド「ピテカントロプスエレクトス」通称「ピテカン」のメンバードラムの憲二、キーボードの寿子、ベースの大将、ギターの稲村、ボーカルの奥ちゃんの高校生活を描く、佐藤宏之の代表作。
明るくバカバカしい日常、ロックに対する熱い想い、甘酸っぱかったり情けなかったりの高校生活が、やがてほろ苦いラストへなだれ込みます。
ライブシーンや楽器はリアルで、当時のバンド少年少女は共感したり身につまされたりしていました。
バンド経験者でないと描けない作品だと思います。

物語は高校一年の武藤憲二が楽器店でドラムセットを売るところからはじまります。母親からドラムを反対されたためです。売るまえにスタジオを借りてたたき納めをする憲二、それを聴いていたのが同じクラスの風紀委員長、友永寿子です。
寿子は自分がキーボードを弾いているバンド、ピテカントロプス・エレクトスのドラマーとして憲二をスカウトします。
一度は断ったものの、やはりロックがやりたい憲二はピテカンに加入します。憲二は知らなかったのですが、実はピテカンとは、S&Nコンテスト(east&westと思われる。)で全国優勝したバンドだったのです。

物語は基本的に一話完結で、バンドに全く関係のない回も多くあります。80年代の、のんびりとした高校生活、背伸びして酒も煙草も当たり前にやっていた自由な雰囲気がよく出ています。そして憲二と寿子はやがて恋仲となるのでした。

S&Nコンテストを控えたある日、ピテカンOBでプロのベーシストのクニさんが修行先のイギリスから帰国します。ピテカンが練習しているスタジオを訪ねたクニさんは、

「リズムすら満足にとれないくせによ。」

と、憲二の買ったばかりのシンセドラム(パールのシンカッション。現在中古で15万くらいです。)を取っ払い、スネア一つで超絶技巧を見せつけます。

パールのシンカッション。いわゆるシンセドラム

「シロートは機械に頼る。」

と言われ、落ち込みながら憲二は発奮して練習します。クニさんの言うことは本当だと感じたのです。何をやっても長続きしない、辛抱が足りないと言われ続けた憲二は、こうしてドラムに、ロックにのめりこんでいきます。

ライブとリハ、合宿、コンテストとバンドマンの日々、さらに文化祭、修学旅行、クラスマッチ、クリスマスにお正月にバレンタインと高校生の青春の日々を送り、

やがてピテカンのメンバーは将来についてそれぞれが考えるようになり、弁護士を目指すベースでバンマスの大将が、受験でバンドを辞めると言い出します。(禁断症状が出て数日後に復帰)普段の楽しい高校生活との対比、やがてやってくる大人になる日に向けて、彼らも成長していきます。

稲村はリスペクトするブルースシンガー、本間のおっちゃんと出会います。本間のおっちゃんは一曲だけヒットを飛ばしたシンガーですが、今は仕事がなく流しでもなんでもやり日銭を稼いでいます。プロでやっていきたい稲村はおっちゃんに弟子入り志願し、家出して関西のキャバレーで一緒に演奏しています。客が誰も聴いていない、リクエストがあれば演歌でもやる、やりたい曲はできない、それでも稲村は

「好きなことをやるため。」

と言い、おっちゃんは

「誰も聴かないのが当たり前のこの場所で、誰かが自分の歌を聴いて感動してくれたら、歌い手冥利につきる。」

と、憲二に語ります。

この辺り、前述のキャバレーにも通じるものがあります。

そんな中、憲二はある同じ夢を見るようになります。

「街はずれにあるトンネルを抜けたところに広場があり、大勢の人が歌い、踊り、楽器をかき鳴らし、それはもう楽しくて・・・。」
その夢が伏線となり、ラストシーンで憲二は夢を現実にするための道を行くことになります。以下ネタバレです。

憲二の背中を押したのは、ドラムに反対していた母親でした。憲二はミュージシャンとして稲村と本間のおっちゃんとドサ廻りの旅に出ます。寿子とは別れを選びます。そのラストの持つあるリアリティのため、読者はいつまでも彼らの未来を追ってしまうのです。

作中に登場する曲についてはこちら

 

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