ピアノ

奇跡のピアニスト、德永義昭さん

さて、ご覧になった方も多いと思いますが

「あんたの夢叶えたろかSP」

で大きな感動を呼んだ、ピアノにもクラシックにも縁がなかった漁師さんが弾くラ・カンパネラ、言葉がなかったです。

パチンコしか興味のなかった徳永義昭さんは現在59歳、楽器は未経験、勿論譜面も読めません。そんな徳永さんがピアノを弾き始めたのが52歳の時、テレビで偶然見たフジコ・ヘミングさんのラ・カンパネラを聴き

「自分もあの曲弾きたい。」

と独学で毎日7~8時間、譜面が読めないので動画を見て一音一音覚えていくという方法でなんと7年間かけてラ・カンパネラを弾けるようになったのです。

徳永さんの夢は、

「フジコ・ヘミングさんに自分の弾くラ・カンパネラを聴いてもらいたい。」

その思いを知った徳永さんの妹さんが番組に応募してきたのでした。

夢がかないフジコ・ヘミングさんと対面した時の塘永さんの感動と、その奇跡の演奏はこちらで。

スタジオの感動の涙は

BLUE GIANT

で雪祈が初めて大の演奏を聴いて、その3年間の努力に感動して涙したシーンを思い起こさせるものがありました。大も最初は独学でした。15歳から毎日川原でサックスを吹き続け、その情熱と才能に惹かれる人に助けられ由井に見いだされて弟子入りします。大は最初から世界一のサックスプレイヤーになるという高い目標を持っています。

一方徳永さんは52歳、ただひたすら「ラ・カンパネラ」を弾きたい

その気持ちだけで毎日練習を続けていたのです。端からみたら本当に大変なことなのですが、徳永さんは非常に楽しんで練習しているように思います。本当に純粋な気持ちからの7年間だったのですね。

そして徳永さん自身がピュアで魅力的な方なのです。その人柄が演奏に出ています。

動画はこちら

 

 

音楽小説 蜂蜜と遠雷(上)その2 あらすじとネタバレ

蜜蜂王子と天才少女

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1次予選は異色の天才少年、風間塵の出番です。塵の天才少年との評判は既に観客にも届いているらしく、ステーイに出ると割れんばかりの拍手で迎えられました。それに16歳という年齢よりもさらに子供っぽい様子で応えてお辞儀をし、ピアノの前に座ると弾き始めます。

「何だ?この音は。」

その音に驚愕したのは審査員の一人でマサルの師、ナサニエルです。音の鳴りが他のコンテスタントとまったく違うのです。一人で弾いているとは思えない立体的な音と、観客がぎっしり入っているにもかかわらず長いリバーブタイム、通常ではありえなかったのです。塵は微笑みを浮かべ楽し気に弾いていました。その様子は塵の音楽がなんの気負いもなく自然と生まれてきたものであると示すようでした。

風間塵の演奏はここでも物議を醸し、審査員の評価は割れました。割れるだけではなく審査員の間にパニックすら与えたのです。

嵯峨三枝子は何となく風間塵の音楽がもたらすものがわかってきました。塵の音楽は心の中の一番柔らかいところに触れてくるのです。それは音楽の理想とも言うべきものだと三枝子は思うのでした。また、三枝子は最初に聞いた時ほど塵の演奏に嫌悪感を感じなくなっていました。

一方、復活がかかっている栄伝亜夜は不安のあまり居たたまれなくなっていました。自分は落ちる、一次予選で落ちるとの思いにとらわれていたのです。亜夜は奏に誘われ風間塵の演奏を聴きに客席に向かいました。塵の演奏は亜夜の不安を

「このように弾きたい。」

という思いに変えていきました。

亜夜はステージに立った瞬間から周囲の空気を変え、格が違う音楽を奏でナサニエルをして

「マサルのライバルは風間塵ではなく栄伝亜夜だ。」

と思わせたのです。

そのマサルは、亜夜を見て懐かしい想いに駆られます。実は亜夜はマサルを最初にピアノへと導いた少女だったのです。マサルは演奏を終えた亜夜に会いにひたすら会場を駆け抜けます。

「アーちゃん!」

「マーくんなの?」

二人はようやく再会したのでした。

一次予選には四人全員が通りました。ただ、風間塵の評価が割れたため一次通過ギリギリのラインになってしまったのですが。

二次予選

二次予選の目玉となる曲は、芳ヶ江国際ピアノコンクールのために作曲されたオリジナル曲「春と修羅」です。この曲のカデンツァ部分は「自由に、宇宙を感じて」と指示があるだけの即興演奏です。

亜夜はマサルと即興部分をどうするか話していた時、ぶっつけ本番の本当の即興にすると話しマサルを驚かせました。クラシックの演奏者は即興とはいっても予め譜面に起こしたものを練習して弾くことが圧倒的に多いのです。亜夜はクラシックから離れていた間ジャズやフュージョンを演っていたのです。それでアドリブに抵抗がないのでしょう。予め作って練習していった演奏では「自由に、宇宙を感じて」から外れていってしまう、というのが亜夜の主張でした。

一方明石は、カデンツァをしっかりと作りこんでいました。社会人で時間がなく、音大も卒業してしまっているため改めて当時の恩師に指導を受けるのも憚られる明石は、考え方を変えて年長者でなくてはできない解釈で「春と修羅」に挑むことにしたのです。

明石は通勤中に昔よく読んでいた宮澤賢治を読み直し、「春と修羅」の舞台となったとされている場所を見に岩手まで出かけて行ったりして自分なりのイメージを固めていきました。

その行程を経て、早く人前で弾いてみたいと感じるようになり二次予選を迎えたのです。

風間塵は客席で二次予選を聴いていました。塵は音楽の本質に体や行動が自然と反応してしまうようで(そこがこの少年の面白いところなのですが)上手いだけで面白みがない演奏だと眠ってしまい、楽しめる音楽だと自然とグルーウ”に身をまかせて揺れています。傍目には同じことに見えているのですが、明らかに塵の中では違います。

塵の唯一の師、ユウジ・フォン=ホフマンは

「音楽は現在でなければならない。」

と常々塵に伝えていました。曲が生まれた時代の背景や、曲の仕組みを知ることは大切なことだけれど、現在を生きるものでなければならないのです。

塵は高島明石の演奏を聴いて、その音の中に豊かなイメージを感じ取り気に入りました。宇宙まで感じられるイメージに驚いてもいたのです。

三枝子とナサニエルは、「春と修羅」の作曲者である菱沼忠明から、風間塵がピアノを持っていないこと、養蜂家の息子で父親と一緒に旅の暮らしをしている塵は、旅先でピアノを借りては弾いていたといいます。ユウジ・フォン=ホフマンと出会うまで、そのような練習だったという話に三枝子とナサニエルは驚愕します。

二次予選二日目、マサルは「春と修羅」を弾く夢を見ながら目覚めました。マサルは「春と修羅」で全部説明しきらない余白を表現すると決めました。そのためにどうすればいいか見つけたときに喜びを感じ、早く弾いてみたくなったのです。試行錯誤の末見つけ出した自分の「春と修羅」、その感覚を再現するためにマサルは二次予選のステージに向かうのです。そして亜夜はマサルの演奏を聴きその引き出しの多さに簡単し、「春と修羅」の宇宙に鳥肌を立てるのでした。

一次予選で風間塵が弾いた曲はこちら


映画「蜜蜂と遠雷」〜藤田真央 plays 風間塵

Piano Sonata in F Major, K. 332: I. Allegro クリックでyoutube

栄伝亜夜にこのように弾きたいと思わせ、彼女の復活の一助となった演奏がこれです。

そして亜夜の演奏はこちら。


映画「蜜蜂と遠雷」 ~ 河村尚子 plays 栄伝亜夜

淡々と進んでいくコンクールの中にたくさんのドラマがあるのですが、あらすじをまとめるのに非常に苦労しています。時間が欲しい。

下巻は映画の公開が終わってから更新しようかな。

音楽小説 蜜蜂と遠雷(上)その1 あらすじとネタバレ

芳ヶ江国際ピアノコンクール・・・4人のコンテスタント

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映画、「蜜蜂と遠雷」を公開初日に観てきました。音楽映画はやはり劇場でよい音響で観るのが一番です。映画中の音楽以外の音も堪能できます。ぜひ公開中に観ることをお勧めします。

原作小説は、芳ヶ江国際ピアノコンクール(モデルとなっているのは浜松国際ピアノコンクール)のパリオーディションシーンからはじまります。モスクワ、パリ、ミラノ、ニューヨーク、芳ヶ江の各地でのオーディションで選ばれた90名が、芳ヶ江で行われる1次予選に参加、その90名は3次予選までに12名に絞られます。そして3次予選を突破した6名が本選に駒を進めるのです。

その中のパリオーディションに、クラシックのピアニストとしてまるきり異端としか思えない16歳の少年が出場するところから物語ははじまります。移動に時間がかかり遅刻したため、順番が最後となった彼は泥だらけの手、カジュアルなシャツとパンツで現れ、立て続けに課題の3曲を弾いたのです。その演奏は他のコンテスタントとかけ離れていました。音色が、まったく同じピアノと思えないほど違っていたのです。それだけならよくあることで、よい演奏者なら同じ楽器を使っていても、同じ楽器とは思えないほどいい音を出すものなのです。しかし、この少年の音はそのレベルではありませんでした。

審査員の一人、嵯峨三枝子はその音に恐怖すら感じました。恐怖を感じつつも耳はその音を聴きたがり前のめりになっていくのです。三枝子の恐怖はやがて、なぜか怒りに変わっていきました。

少年のオーディションの合否は揉めに揉め、決定に時間がかかりました。その少年、風間 塵(かざま じん)は恐らくほとんど正規の音楽教育を受けていないであろう、その塵がオーディションに合格した理由は、三枝子が恐怖に駆られるほどの圧倒的な才能ともう一つ、塵がユウジ・フォン=ホフマンの推薦状を携えていたことによるものでした。

コンテスタントの一人、栄伝 亜夜(えいでん あや)は20歳。かつて天才少女と呼ばれ、幼い頃にCDデビューを果たし演奏活動もしていたが、13歳のときステージを直前でドタキャンします。亜夜の最初のピアノの先生でありマネージャーでもあった最愛の母が亡くなり、それから間もないコンサートで母の不在を強く実感してしまった亜夜の中から取り出すべき音楽が消えてしまったのです。

演奏活動から離れ、普通の高校生として生活するようになった亜夜の元に、母の音大時代の友人の男性が訪ねてきました。浜崎と名乗るその男性は亜夜の非凡な音楽性が今でも彼女の中に息づいているのを認め、自分が学長を務める音大に誘ったのです。クラシックの演奏活動はまったくしていなかった亜夜でしたが、音楽は今でも身近にあり好きだったため、音大進学を決めたのでした。

亜夜は身の回りの音すべてから音楽を聴くことができ、それが彼女をして天才少女と呼ばわしめた才能であったのです。

高島明石は28歳、コンクール出場年齢ギリギリの明石は音大を出た後、楽器店に勤務し教師の妻と保育園に通う息子の三人家族という異色の存在です。地に足のついた生活者の音楽を奏でる明石は常にある疑問を抱いていました。

「生活者の音楽は、音楽だけを生業とする者より劣るのだろうか。」

抜きんでた才能があるわけではない明石ですが、音楽には縁のなかったはずの祖母の耳のよさを身近に感じ、音楽は一部の天才だけのものではないと生活の中の音楽を大事にするのでした。明石の祖母は、明石や遊びにくる明石の友達の弾くピアノの音色を聴いて、性格や精神状態を言い当てるのでした。深いところで音楽を聴く人だったのです。

マサル・カルロス・レウ”ィ・アナトールはフランス人を父に、日系三世のペルー人を母に持つ、今回のコンテスタントの中で一番の注目株です。幼少の頃一時期日本に住み、その後フランス、アメリカと移り住み、現在はジュリアードに在学する19歳です。ジュリアードの王子様、との異名も持っています。マサルはその出自と成育歴から多国籍な感性と雰囲気を持ち、すでにスターとしての貫禄を身に着けていました。もちろん雰囲気だけでなく実力もずば抜けていたのです。

マサルがピアノに初めて触れたのは、日本に住んでいた時です。近所に住んでいたピアノを習っている少女との出会い、その少女とピアノの先生に耳の良さを見出されたのがきっかけでした。マサルがフランスに帰国することになった時先生はぜひピアノを習うように勧め、その言葉通りにフランスでピアノを習いはじめたマサルはたちまち頭角を現し二年後には神童として広く名を知られるようになったのです。

1次予選

一次予選がはじまりました。高島明石の演奏シーンは、明石の妻満智子の目を通して語られます。満智子は明石とは幼馴染です。研究者一家に生まれ自らも研究者を志し挫折した満智子は、音楽の道を一度挫折して再挑戦する明石に共感し応援し続けていたのです。

明石の出番の前から聴いていた満智子は、他のコンテスタントを

「みんな上手だな。」

と感じていたのですが、明石の演奏を聴き同じピアノなのに全然違う印象があることに気づくのでした。音楽とは人間性であることを、子供の頃ピアノを少し習っただけでそれ以外には無縁だった満智子をして気づかせた明石の演奏でした。その音には満智子のよく知っている明石の人柄が現れていました。

そして明石の演奏は審査員にも大きな印象を与えたのでした。音楽を聴いた感じ、という感想をもらす審査員もいるなか、嵯峨三枝子は、明石の名をしっかり覚えこんだのでした。

栄伝亜夜は、客席を占める観客のあまりに驚いていました。今日はジュリアードの王子と呼ばれるコンテスタントが出ると浜崎奏(はまざき かなで)に聞かされ、怪訝な表情を浮かべます。奏は亜夜を自分の音大に誘った浜崎学長の次女で今回は亜夜のマネージャーのような立場で同行し、何くれとなく世話を焼いています。大らかで少し天然な亜夜としっかり者で常識人の奏は相性もよく、姉妹のように付き合っています。

奏の言うジュリアードの王子様がステージに姿を現したとき、その華やかな雰囲気に圧倒されながらも亜夜は、なぜか懐かしいものを感じるのでした。王子の演奏がはじまり、他のコンテスタントとの徹底的な違い、スターの持つオーラ、まさしく王子である気品に客席も審査員席も虜になっていったのです。

一次予選最終日、亜夜の出番がやってきます。

芳ヶ江国際ピアノコンクールで実際に演奏された曲はこちら

映画、「蜜蜂と遠雷」では、4人の登場人物の演奏をその個性に合わせて違うピアニストが吹き替えをしています。


映画「蜜蜂と遠雷」〜福間洸太朗 plays 高島明石 [ 福間洸太朗 ]

明石が一次予選で本当に弾きたかったのはこの曲です。時間制限に引っかかるので諦めました。

Chopin – Ballade no. 4 in F minor, op. 52 – Kotaro Fukuma クリックでyoutubeへ


【ポイント10倍】金子三勇士/映画「蜜蜂と遠雷」〜金子三勇士 plays マサル・カルロス・レヴィ・アナトール[UCCS-1252]【発売日】2019/9/4【CD】

そして、ジュリアードの王子様マサル・カルロスの吹き替え、金子三勇士の演奏です。一次予選でマサルが弾いた曲が見つからなかったのでこちらを。

金子三勇士 – 献呈(シューマン/リスト編) S.566 クリックでyoutubeへ

長い作品なので分割します。その2へ続く。

 

 

 

BLUE GIANT8巻(ブルージャイアント)あらすじとネタバレ

全力で自分をさらけ出す

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雪祈は人を探しています。顔しか知らない人です。JASSがライブを演っている店を回って、その人が来たら教えてもらえるよう頼んでいます。その人に会わないと、始まらない何かが雪祈にはあるようです。

ある夜、雪祈はいつものように工事現場の誘導のバイトをしています。そこで、その人らしい人を見つけるのでした。その人は豆腐店の名前が入った軽トラに乗っていました。雪祈はバイトを終えてから地図アプリを頼りにその豆腐屋を訪ねます。たどり着いたのは深夜1時過ぎ、それから2時間ほど待って店のシャッターを開けた人は、雪祈の探していたその人でした。

まだ寒い早朝から黙々と仕事をするその人を雪祈は見つめています。

「こういう人が、JASSのライブを聴きに来てくれている。」

その人は、先日雪祈がライブ後にサインを断った男性でした。仕事が一段落するのを見計らい、雪祈は男性に声をかけ、自分のサインを渡します。

「次はもっと、いい演奏しますので。」

そういって頭を下げるのでした。

雪祈はSo Blueの平に言われた言葉が心底堪えていました。本当のソロができないこと、音楽以前に人として駄目であることを突き付けられ、自分を変え本当のソロを演りたいと思います。その一歩として無下にサインを断った男性にサインを渡し、次のもっといい演奏を約束しないと始まらなかったのです。

雪祈が悩んでいるらしいことは、始終一緒に合わせている大や玉田にも伝わっています。雪祈は何かを言ったわけではありませんが、音で伝わってしまうのです。

雪祈は、自宅を酒を持って訪ねてきた大に

「俺のソロ、どう思うよ。」

と聞きます。その雪祈の問いに大は

「話になんねえな。」

「俺はサックスを吹く時はいつでも、世界一だと思って吹いてる。」

「次元が違い過ぎて話になんねえ。」

と、ざっくり切り捨てるのでした。

しかし、大は雪祈を信じていたのです。

壁を破れなければそこで終わり。でも、あいつは破る。

So Blueの平は悩んでいました。仕事でブッキングした大物プレイヤーは昔の面影はなく、客の入りも今一つ。本人にもやる気は見られません。落ち目であることもわかっていない様子です。

平は雪祈に言い過ぎたと後悔するのです。仕事の合間にセミプロのバンドを何バンドか聴いてみて、JASSは面白いバンドだったと思い返します。面白いと思ったからこそ、率直過ぎることを言ってしまったのです。

ある日、平は立ち寄ったライブハウスで大を見かけます。途中で退席した大を追い、声をかけます。平は肩書を隠し、JASSのライブを聴いたこと、一杯奢らせてほしいと大に申し出ます。ところが、そこで少々おかしな誤解が生じてしまうのです。

平が大を連れてきた行きつけのスナックのママが心だけ女性のトランスジェンダーの男性であったことで、大は平がゲイだと勘違いします。

平は気になっていた雪祈の近況を聞きます。そこで大は、平が雪祈を狙っていると思い込み、

「雪祈は彼女いますよ。100人、いやもっと、メチャメチャモテるんで、女に。」

勘違いなのですが、大なりに雪祈を守るつもりで滅茶苦茶なことを言います。ここは妹の彩花じゃありませんが

「ちっちゃい兄ちゃん、ほんとバカだ!」

と言いたくなりますが、勿論平はそんなことは言わず、それどころか気にも留めず

「ピアノ、弾いてる?」

と聞きました。大は、今雪祈が大きな壁に突き当たり苦しんでいることを話します。

「壁を破れなかったら終わりです。」

誰も助けられない雪祈の悩みを思っての言葉です。

「でも、雪祈は破るでしょうね。」

大は別れ際、いつか必ず、JASSでSo Blueに出演するから見に来てください、と平に言います。

そんなある日のライブ、雪祈はまだ苦しんでいます。どうしても手グセのフレーズやコード進行の枠組みの中で考えたフレーズしか出てこないのです。平と会ってから数週間、練習しても練習しても自分をさらけ出すソロが弾けないのです。ダメであることに失望しながら自分のソロを終え、大に渡します。

ところが、大は吹きません。吹かないどころかサックスから手を放し、腕組みしてしまいます。次も雪祈のソロです。雪祈は渾身のソロを弾きます。考えるな、考えるな!

これでどうだ?と大を見ますが、大は相変わらずサックスから手を放したまま雪祈を煽ります。もうやるしかない袋小路に追われた雪祈のソロが再び続きます。両手でのワンノートの連打からはじまるソロ、考えずに自分をさらけ出している様が、絵だけで伝わってきます。そこに大の掛け声と観客の歓声、そして大のソロが割って入ります。玉田はその雪祈のソロが今までで一番良かったと感じながらサポートするのでした。

もっといい音が出るように

雪祈の最高のソロ、そのライブを観に来た人が楽屋に訪ねてきました。21ミュージックの五十貝と名乗るその人は、ジャズの時代が終わったと言われている今、ジャズを売ろうと思っていると言い、通るかどうかわからないがCDリリースの企画に出すからとJASSの音源を求めるのでした。

五十貝は21ミュージックのジャズ部に所属し、ジャズを売ろうと奔走していますが、力を入れたミュージシャンのCDでさえ初版1,500枚しかリリースできず、上からはジャズはわかりにくく売れないからリスクのない音楽を求められています。それでも負けずに日々戦い続けます。

雪祈はCDリリースが月旅行だとしたら、五十貝の話は熱海や品川までで月には遠すぎるというのですが、大は

「月まで行こうぜって言いに来たんだべ、あの人は。」

と、ほんの少しでも月に近づいたことを示唆します。

年末になり、冬休みを迎えた雪祈と玉田はそれぞれ実家に帰省します。一人になった大はバイト代も入り少しだけリッチな年末年始を過ごせることになる・・・はずでした。

サックスのメンテナンス代を払ったあとの全財産の入った財布を落とし、の日々を送るはめになるのでした。大晦日もいつもの練習場所でひたすら練習する大のもとに、家族からの電話が入ります。

一人で迎えた新年、大は通りかかった神社で初詣をします。次にバイト代が入るまでの残り少ない財産から100円を賽銭箱に入れて

「もっといい音が出るように。」

と祈るのでした。

うちのテナーを見れば、全部わかるんで

冬休みも終わり、雪祈も玉田も東京に戻ってきて再び練習の日々です。

そして、JASSに初めてジャズフェスの出演依頼がきました。町おこしとして開催される小さなジャズフェスですが、メインの出演者が名の通った「アクト」というバンドで、JASSの出番はアクトの直前です。

出演者の説明会と親睦会を兼ねた集まりに参加するため、雪祈は柴又駅に降り立ちます。ジャズフェスの名前はカツシカジャズ。葛飾区で実際にジャズフェスをやっているかどうか調べてみましたが、見当たらないようなので架空のジャズフェスの模様です。

会場にはアクトのピアニストの天沼がいて、雪祈に声をかけてきました。天沼は評論はラジオ等でも活動している著名なピアニストです。

雪祈はJASSをカツシカジャズに推薦したのは天沼だと知りますが、どこでJASSのライブを観たのか聴くと天沼は

「聴いたことはない。」

と答えるのです。知り合いに若くて元気のいいバンドを教えてもらった、それがJASSだったというわけでした。

少し鼻白む雪祈でしたが、天沼はJASSはどのような音楽をやっているか問い、「オリジナル中心のジャズ。」と答える雪祈に続けて、それだけでは曖昧すぎて何も伝わらない、アクトはジャズを数少ないジャズファンに届けるため幅広い活動をしてマイナーなジャズが受け入れられる努力をしてきた。JASSは何を伝えようとしているのだ、と畳みかけます。言っていることは正論ではありますが、JASSを若さだけのバンドと蔑んで絡んでいるようにも見えます。

それに対して雪祈は、

「一人でも多くの人に自分たちの音楽を聴いてもらうために出演する。」

と返し、

「うちのテナーを見れば、全部わかるんで。」

そう言い残し会場を去りました。

それにしても玉田の成長っぷりときたら

8巻は雪祈り中心に話が進んでおり、その分主人公である大の影がなんとなく薄いのですが、玉田の成長が地味にすごいのです。初心者ですから伸びしろは当然たっぷりあるのですが、雪祈のソロを聴いて「苦しそう」と思いながら叩いたり、また雪祈が壁を破ったライブでは「今までで一番よかった。」と感じたり、音をしっかり聴きながら叩いているし、音の裏側にあるものも感じ分けています。

努力が実っていることもありますが、大の音を聴いてまったく縁のなかったジャズをやってみたいと思うあたり、ジャズと相性がよく耳もよかったのだと思います。

玉田は大や雪祈のようにジャズプレイヤーとして生活していこうとは思っていません。いずれは大学に戻り就職するつもりです。そのうえで今はドラムに打ち込む(ドラムだけに)ことに決め大学を留年させてほしいと親を説得するために年末に仙台まで帰郷します。

ブルージャイアントの各巻には巻末に「bonus track」というサイドストーリーが掲載されています。その大半が恐らく世界を股にかけるサックスプレイヤーとなった大の無名時代の縁の人のインタビューという形式になっています。インタビューを受ける人の職場や自宅等でのインタビューです。

玉田は7巻に出演します。会社の会議室のようなところで、玉田はジャケットにノーネクタイというソフトカジュアルで出てきます。自由な雰囲気の業界に就職したようです。音楽関係の可能性もありますね。もしかしたら21ミュージック?などと思ってみるのも楽しいです。

玉田が8巻でスティックを購入したのがこちら。楽器の事なら石橋楽器!

1巻はこちら

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6巻はこちら

7巻はこちら

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